優しい手①~戦国:石田三成~【完】
ネックレスは返してもらえないままだったが…気付いた。

この屋敷には、女が一人も居ない。


「女嫌いなのかな?」


――時空を飛んだというのに桃はあっけらかんとしている。

それは両親がいつも時空を旅している時の話を姉たちから聞かされていたせいでもあるし、
そしていつか飛んでみたいとも思っていたからだ。


「大人だったなあ…25,6歳くらいかな?やっぱり三成さんって呼んだ方がいいのかな」


「おい、これを着ておけ。女…ゆめゆめ三成様を窮地に陥れようなどとは考えるな。我ら若江八人衆がそなたを常に監視しているからな」


家臣から釘を刺され、制服を脱ぐと手渡された桃色の可愛らしい浴衣に袖を通した。


「ぶふっ、三成さんがこれを選んだのかな?ちょっと可愛いかも」


髪や身体を拭いて浴衣を着ると夏祭り気分になって能天気に鼻歌を唄いながら部屋を出ようとして、途中三成と鉢合い、身体がぶつかってよろめいた。


「…すまない」


「あ、いえ。あの…何て呼べばいいんですか?三成さん?それとも三ちゃん?」


「…三成さん、でいい」


はあい、と声を上げた桃に、三成は動揺を隠し切れていなかった。


――生来人づきあいは得意な方ではない。

もてなす心には長けていたが、清廉すぎる性格が災いしてか、どこか周囲から遠ざけられることも多い。


そんな中、この桃と名乗った女はずけずけと傍に寄っては親しげに話をしてくる。

今までになかった類の人物だ。


「あのね三成さん。私は預言者とかじゃなくって、この時代よりもずっとずっと先に生まれた子なの。だから歴史を知ってるだけなんだよ」


「それが狂うと、どうなる?」


縁側に腰掛けて、質素ではあるが美しい庭園を眺めた。


「例えば…起こるはずのない戦いが起きたり…あなただって関ヶ原の戦いで…」


「関ヶ原で…俺はどうなるのだ?」


――桃は黙ることしかできなかった。


“その時代の人間に歴史を伝えるのは一番してはいけない行為“


両親が何度もそれを姉妹にきつく教えていたからだ。



「…教えられないの。ごめんね」



三成は…少し黙り、頷いた。
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