優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃は全速力で逃げていた。


…三成から。


「なんで…なんで追いかけて来るの!?」


高校では陸上部に入り、記録も持っている桃の脚にじりじりと距離を狭めてくる三成。


裏山に通じる竹林をがむしゃらに走り抜けど、とうとうその手が三成に捕まれた。


「ちょ…、三成さ…、は、はや…っ」


「桃、俺の話を聞いたか?俺の妻に…」


やや息を荒げながら抱きしめられて耳元に息がかかり、桃は背筋を震わせた。


「私と結婚!?三成さん、ちょっと待ってっ」


「抱いたことすら記憶にないが…これからは確と…」


真面目な顔で求婚され、桃はへたりこみながらなんとか首を振った。


「違うよ…エッチしてないってば…!キスは…されたけど…。それに…裸も見られたけど…」


――まだ右腕を捕まれたまま座り込んでいたので三成の表情がわからなかった桃が顔を上げると…

またもやその端正な顔は赤くなり、桃と同じように三成は座り込むと胡座をかいた。


「口づけに…裸…!俺は何と言うことを…」


「平気!犬に噛まれただけだと思うようにするから!」


それはそれで失礼な発言だったのだが、案の定むっとした表情になった三成に、怒りも吹き飛んだ。


「ふふっ、怒った?大人の男の人なのに、かわいー!」


十も年上の男に言う台詞ではなく、息を吐くと深呼吸して三成と向き合う。


「誤解だから。三成さん酔ってたし、気にしないから」


「…戯れ言ではない」


「え?」


――聞き返したと同時に、桃は三成の胸の中に居た。


昨夜は酔っていたが、今は違う。


かちかちに固まってしまうと、やや押し殺した声で耳元で囁かれる。


「帰したくない。そなたを愛しく想いはじめている」


顔が熱くなり、まともに三成の顔を見れなくなり、けれど顎を取られて上向かせられると、


そのまま三成と桃の唇が重なった。


「ん…っ」


「酒の勢いではない。そなたが大切だ。考えてくれ、桃…」


――照れ隠しに咳ばらいしながら去って行く。


桃には何が起きているのか全くわかっていなかった。
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