優しい手①~戦国:石田三成~【完】
ゆっくりとした動作で歩き出した謙信の背中に腕を回しながら、桃が元親の名を口にする。


「元親さん、私の顔ばっか見てたけど…どうしちゃったのかなあ」


「どうしたもこうしたも…まあいいや。ねえ桃、天守閣で団子でも食べながら月見する?」


「え、眠たかったんじゃないの?」


「嘘だよ。元親が君ばっかり見てるからちょっと腹が立っただけ」


途中すれ違った女中に団子を注文し、天守閣に上がるとちょうど真上に月が来ていて、ウサギの形もくっきりと見えていた。


「わ、綺麗。さっき来た時と違う!」


「さっき来た時?誰と?」


「え…、えっと…」


ぼろを出してしまって黙り込むと、ばさりと羽織を落とした謙信がごろんと寝転がって背を向けた。


「謙信さん?」


「君は隠し事ばかりする。どうせ三成関係でしょ?で、その首のやつの理由を教えてもらおうかな」


――三成が残したキスマーク…

目ざとくそれを発見していた謙信は、心の底から桃にではなく三成に腹を立てていて、黙り込んでしまった。


焦った桃が肩を揺すって振り向かせようとするが頑としてこちらを向いてくれず、今度は回り込んで目の前に正座するとぺこっと頭を下げた。


「ごめんなさい…急で抵抗できなくって…」


「やけに“平等に”と迫っているようだけど、こういうのってやった者勝ちだよね。じゃあ私も三成と同じことしていいんだよね?平等ってそういうことでしょ?」


その時女中が団子を運んできて一旦会話を中断せざるを得なくなり、皿を引き寄せた桃がはぐらかすようにぱくぱくとみたらし団子を頬張り始めた。


「こら、まだ話は終わってないよ」


「え、えっと…首は駄目。その…苦手だから…」


「へえ、ここよりも?」


ふう、と耳に息を吹きかけられて、桃の手から団子の櫛がぽろりと落ちた。


「私が君の弱点を発見したんだよね。じゃあこれは?」


「ちょ、謙信さ…っ」


羽交い絞めにされてさらに耳に熱い息がかかる。

思わず声を上げると…


「相変わらず可愛い声だね…。さあ、私に全て委ねてごらん」


――断りきれない。

いつだって、そうだった。
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