優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その夜はそうして天守閣で朝まで過ごした。


何度も何度も愛されてどろどろになるまで溶け合って、やっぱり三成と謙信のどちらかを選ぶことができないことを再確認し、隣でずっと顔を見つめている謙信の頬を撫でた。


「もうすぐ…離れちゃうね」


「…そうだね。嬉しい?」


「……嬉しいわけないよ。なんでそんなこと言うの?」


背を向けて抗議すると、背骨に沿って謙信の唇が這った。


「選べないから戻るんでしょ?そして私と三成以外の“誰か”を元の時代で選んで夫婦になるんでしょ?結果、私と三成は君に弄ばれたということになるね」


「違うよ、やめてよ謙信さん、私…」


――責めるつもりはなかったのについそういう口調になってしまい、普段は軍神として崇め奉られる上杉謙信は内心後悔しながら桃を抱き寄せた。



「ごめん、悲しませるつもりじゃなかったんだ。ねえ桃…私が全力で信長を倒して君の親御を取り戻してみせるから、その時は最期に言ってほしいんだ」


「…何を?」


「“ずっと愛してる”って言ってほしい。私は君が居なくなっても、その言葉があれば独りでも生きて行けるから」


「謙信さん…っ」



生涯独身を貫いた男は少しでも桃が望む史実通りに生きてやろうとして、もうすでに未来が変わってしまった今となってもそう約束してくれて、嗚咽を堪えきれなくなった桃は謙信の胸に顔を埋めると声を上げて泣いてしまった。


「ごめ、ごめんなさい、謙信さん…っ、ひっく…」


「私こそごめんね。つらいことを言ってるのはわかってるんだけど…少しでも君と繋がっていた何かが欲しいから。ふふ、女々しいよね」


「ううん、そんなことないよ…。私…三成さんも謙信さんも…大好き…」


「うーん、私の名だけであってほしかったなあ。まあいいや、じゃあもう1回抱かせてくれる?」


「うん…」


朝陽が昇っても謙信は離してくれずに、何度も何度も桃の中で想いを吐き出す。


“桃との間に子が欲しい”


言えない願い。


これ以上引き留めることができないから、それは口に出して言わない。


…三成も同じ想いだろう。


皆苦しんで、皆同じ想いを抱えている。
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