優しい手①~戦国:石田三成~【完】

求めているもの、求めたもの

桃が部屋に戻ると、そこには左近と三成が居た。


「あ、三成さんと左近さん、おはようございます!」


元気いっぱいに三成の隣に座ると、湯上りの桃に顔をやや赤くしながらふいっと視線を逸らした。


「あ、ああ。今日は走らぬのか?」


「うん、今日はやめとこっかな。生理も近いし」


あけすけもなくそう言ったので、左近も三成も動揺しながら茶をぐいっと飲み干してどもった。


「お、女子が男にそんな事情を話すものではないぞ!」


「本当はもう来ててもいいのにちょっと遅れてる…かな…」


――口に出してみて、本当に1週間位生理が遅れていることに気が付き…


顔色の変わった桃を心配した三成が戸惑いながらも桃の手を握る。


「どうした?」


「…え!?う、ううん、なんでもないよ!お腹空いたね!謙信さんまだかな、先に食べちゃう?」


「ははは!桃姫はお元気でお可愛らしい方だ」


左近におだてられて照れつつも、みるみる不安にかられていて空元気になり、そして隣の続き部屋の襖がすらりと開くと謙信が顔を出した。


「騒々しいなあ、ここは私の私室で、そこは私の姫の私室なんだけど。簡単に上り込むものではないよ」


「うるさい。貴公こそ桃の許しなくいつもここに居るではないか」


「もうっ、喧嘩しないで!ね、みんなでご飯食べようよ!」


――桃の元気がないことは三成も謙信ももちろん気が付いていて、ずっと自身の腹を撫でている桃が気になり、謙信が隣に腰を下ろすと縋るような瞳で見上げてきて…


桃と完全に魂が通じている謙信は…ひとつの可能性に気が付いた。


「…桃?」


「謙信さん…あの…な、なんでもありませんっ」


だが謙信は桃の肩を抱いて顔を覗き込むと、小さく囁いた。



「まさか…月のものが来てないとか?」


「………うん」


「どの位?」


「…1週間位。いつもぴったり来るのに…」



さすがの謙信も言葉を失い、三成と左近が小さな声で言葉を交わす2人を注視していた。


もし、子ができたのならば…それは、どちらの子なのだろうか?


もし孕んでいるのならば、絶対に帰さない。
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