優しい手①~戦国:石田三成~【完】
目尻が下がったとびきりの美人につれない態度を取っている三成が気になったが…

その場に居ることがプレッシャーになり、腰を浮かした。


「私ちょっと外に…」


「ここに居ていい」


人前で手を握られて恥ずかしくなるのと同時に茶々が悲しそうな顔をしたので、三成の肩を叩くと立ち上がる。


「今日暑いからクロちゃんを水浴びさせてあげなきゃ」


それでも手を離さない三成に痺れを切らしたかのように、茶々が扇子を閉じながらぴりっとした口調で三成を睨む。


「そなたにも話があります。桃、後でまたここへ来なさい」


「あ、は、はい」


気圧されたかのように部屋を出ると庭には幸村が居て、一気にほっとしながら庭に降りた。


「緊張したあっ」


「豊臣秀吉様のご側室であらせられる浅井家の茶々様ですね。噂通りにお美しい!」


桃に杓子を手渡しながら馬屋に向かって歩き、なるべく自然な口調で笑った。


「拙者は桃殿の方がよっぽどお可愛らしいと思っておりますよ!」


桃は破顔した後バシバシと幸村の背中を叩いた。


「やだもう照れるじゃん!でも嬉しー、幸村さんありがとっ」


三成と居る時とは違う安心感を与えてくれる幸村と共に嬉しげに鼻を鳴らすクロの前に立った。


「じゃ、洗おっか!」


――その頃客間にて。


三成と茶々は互いに黙ったままだった。


…というよりも…三成は伏し目がちに視線を膝に落としていて、茶々は三成が自分を見るまで忍耐強く待っていた。


どんなに時間を浪費しても無駄だと判断し、とうとう口を開く。


「…桃姫を妻に娶るのですか?」


「…あなた様には何も関係のないこと。このようにお忍びでおいでになるのは感心いたしません」


相変わらず堅苦しい説教につい笑いが出るのと同時に胸がつまる思いにさらされた。


「…もう、以前のようにわたくしを慰めてはくれないのですか?」


ようやく三成は視線を上げた。

その瞳には…どんな感情の色も浮かんではいなかった。


「私はあなた様を言葉でお慰めしただけのこと。勘違いはしないで頂きたい」


無惨にも茶々の想いは打ち砕かれた。
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