優しい手①~戦国:石田三成~【完】
早朝、まだ隣で眠っている桃を残して部屋を出て、同じ位の早さで起きている謙信と毘沙門堂の前でかち合った。


「あれ、早いね。桃は?ああまだ寝てるよね」


「まだ眠っている。言っておくが…何もしてないからな」


一瞬きょとんとした顔をした謙信は、次の瞬間手で口元を隠して笑い出した。


「別にそんなこと私に言わなくてもいいよ。決めるのは桃だし、私たちは従うだけ。ああ、こんないい男2人を惑わせるなんて…さすがは天女だね」


――今までずっと敵視していた男は柔和な笑みを浮かべて、天守閣へと向かう廊下を歩きはじめた。


「家康はどうしている?」


「部屋に居ると思うよ。幸村が寝ずの番をしてくれてるから外には出てないと思うけど」


「…俺はどうやら家康に命を奪われたらしい。だから桃が…」


「うん、まあそうみたいだけどもう史実通りにはいかないと思うよ。ああ、朝陽が綺麗だねえ」


着いた天守閣から見える朝陽は神々しく光り輝き、それを全身に受けて瞳を閉じた謙信は本当に毘沙門天の化身のように見えて、三成はこの男と争うのはもうやめよう、と思った。


「…貴公と争うのはもうやめた。俺たちの勝負は痛み分けだ」


「ふふふ、桃が決められないんだからそうするしかないよね。白黒つかないのは大嫌いなんだけど、こればっかりは仕方ないね」


――越後は美しい国だ。

田園ばかりが続いて田舎臭い所だとずっと思っていたが、一たび戦になれば兵はどの国よりも強く猛者揃いで、侮れない。


「君はどうする?桃が元の時代に戻ったら尾張に戻るの?」


「…ここに居ても意味はない。秀吉様に天下を獲って頂くべく尽力する」


「そっか。秀吉公には沢山協力してもらったから、国を攻められたら助けに行くよ。…桃が結んだ縁だからね」


その時だだだっと走る音がしたかと思ったら息を切らした桃がひょっこり顔を出して、早速詰られた。


「もうっ!どうして起こしてくれなかったの!?」


「気持ちよさそうに眠っていたから起こさずにいた。…男同士の話をしているんだが」


「あ、仲間外れ!ひどい!」


謙信がくすくす笑い、桃の肩を抱いた。


「男同士の秘密だから内緒」
< 566 / 671 >

この作品をシェア

pagetop