優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その日の昼――駆け込んできた軒猿の報告に、桃は耳を疑った。


「清野たちが無事に桃姫の親御を救出し、現在は豊臣軍と合流して越後へ向かっております!」


「え…っ、お父さんとお母さんがここに!?怪我はないの!?元気だった?!あと…」


「落ち着いて。2人共無事なんだね?」


「はっ。桃姫を終始案じておられるとのことでございます」


――ようやく両親が無事だったという報告を聞いた桃は身体の力が抜けて、上座の隣の謙信にもたれかかった。


「よかった…!お父さん、お母さん…っ」


「これでもう心置きなく織田軍を攻めれる環境が整ったね。そろそろ…私も本気を出そうか」


ふわっと笑ってそう言ったが、その場に居る誰もがぞっとした。


武田信玄のみに全力を賭した謙信が次に狙いを定めたのは、織田信長。

度々桃を付け狙い、一時は盲目にさえさせたやり口を、謙信は未だに許せていない。


家康は末席に座りながらも冷や汗が止まらず、よくよくこの男と桃を狙って無事でいられた自分自身の強運に感謝していた。


「合流できるのは恐らくうちの軍とぶつかった後だろうね。秀吉公にはあまり前進せずに攪乱する程度でお願いします、と伝えておいて」


「御意」


涙目になっている桃に誰もが安心させるような笑みを作り、そして幸村はぴんと背筋を伸ばし、決意を込めて桃を見つめた。


「拙者も命を懸けて戦います。桃姫、あなた様が思うがままに選択できますように」


「幸村さん…ありがと。みんな本当にありがとう!私のわがままでこんな…」


「いいんだよ、みんな君のことが大好きなんだ。さ、軍議を始めるから部屋に戻っていて」


「では俺が」


三成が腰を上げて桃の手を引くと退出し、途端に謙信の顔から笑みが消え、上座から身を乗り出して皆を見渡した。


「本気で行くよ。越後の龍はうつけ者の首を噛み落とすまで動くのを止めないからね。怖気づいた者は軍から離れなさい」


「殿、そのような弱虫は我が軍には居りませぬ!桃姫のためにやってやりましょう!」


「桃姫のために!」


大広間は桃の名で満ち溢れた。


謙信の顔にまた笑みが戻り、皆を喜ばせ、鼓舞させた。
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