優しい手①~戦国:石田三成~【完】
逸る気持ちを抑えられないでいた桃は、ひとまず自室に戻って正座して気を落ち着けようと思ったのだが…


両親がこちらに向かっていると知ってじっとしていられるわけもなく、笑いを噛み殺しているような顔をしている三成の腕をつねった。


「ひどいよ笑うなんて!」


「いや…そなたのはしゃぎようが想像以上で驚いているだけだ」


「だってお父さんとお母さんの記憶なんて…ほとんど残ってないもん」


――いつもいつも家を留守にしていた両親。

突然帰って来なくなった時、姉たちは言った。


『お父さんとお母さんは死んだの。もう帰って来ないのよ…』


常に死と隣り合わせの仕事をしていた。

いつも覚悟を決めて時空を飛んで、オーパーツの回収に努めてきた。


歴史を狂わせてしまった事実はもう戻らない。

今後元の時代に戻って、それが歴史にどんな影響を及ぼすのか…常に反省と後悔の日々を送ることになるのだろう。


「三成さんは…赤ちゃん…欲しい?」


「なに?…そなたとの子なら喉が出る程欲しい。なんだ、残る決意を固めてくれたのか?」


「…私は残らないけど、もし赤ちゃんができてて、元の時代に戻っても…世間に責められる私やお母さんたちを見られたくないな、って思うの。きっとひどい目に遭うから」


「…そこまでして帰らなければならぬのか?俺か謙信を選べないというだけで?…今は深く考えるな。月のものは来るかもしれぬし、俺はそなたの親御にも会って挨拶をしたい」


「うん、ありがと。ねえ三成さん、天守閣に行こうよ。まだ着かないのはわかってるけど、見てたいの」


「わかった。つまらぬ軍議にはもう飽き飽きしていたところだ。付き合うぞ」


毒舌石田三成。

…まさか実際に会う日が来ようとは。

まさか、こんな風に愛し愛される日が来ようとは。


――毘沙門堂の前を通り過ぎる時に脚を止めて、合掌すると小さく頭を下げた。


この出会いには確かに意味があるものだったと信じたくて、不器用な三成と優しい謙信と…

結局未だに選べずにいる自分の優柔不断さに笑いが込み上げてきながらも、天守閣に上って、近付いて来る冬を予感させる風を浴びた。


もうすぐ、別れも来る。
< 568 / 671 >

この作品をシェア

pagetop