優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「なに…?安土城が…落ちただと!?」


――無事に越後の国境までたどり着こうとしていた時、全身に刀傷を浴びて命からがらになりながらも、男の忍者が1人だけ織田軍の陣地にたどり着いた。


「上杉の、軒猿と…真田の十勇士によって急襲され、桃姫の親御は城を脱出!皆さま全て討ち死にされました!」


「な、なんだと…!?清野は…清野はどうした!」


即席の椅子を蹴り飛ばしながら立ち上がり、怒りを爆発させた信長は顎髭を震わせながら瀕死の忍者を睨みつけ、そして次の報告によって、言葉を失った。


「清野は元徳川方の服部党のくノ一であり、現在は上杉謙信に従う刺客でありました!殿…最初から清野に騙されていたのです!」


――最初は疑ってかかっていたのに…


あまりにも完璧すぎる清野の徹底した従いっぷりに最後まで騙されていたのだ。


あの織田信長が――


「ふふふふ…清野め…やりおる。やりおるのう!」


「殿…ですから最初から進言申し上げておりました!清野は怪しい、と!」


「お蘭よ、おぬしも騙されておったろうが。そうか…くノ一であったか。そうか」


――一時は本気で愛して、越後で謙信の首を狩ったらそれを手土産にして清野を喜ばせて正室に迎えようとした自分がおかしくて仕方がなくなって、それでもなお信長は甲賀の忍者に最期に問うた。


「で…清野はどうしている?」


「わかり、ませぬ…。追っ手は、すぐそこまで………無念…」


物言わぬ屍となってしまい、どこまでも抗う上杉謙信に対して信長は憎悪を募らせた。


「桃姫の親御も脱出か…。のうお蘭よ、これで儂の命運も尽きたと思うか?」


「そのような世迷言はお止め下さい!殿は天下人となる器のお方です!桃姫を必ずや手中に収めましょうぞ!まだ間に合いまする!」


…もうそんなに長くはない。

気を張っていられるうちはいいが、一刻も早く、今の時代よりもはるかに進んだ文明から薬と技術を持ち帰ってもらわないと…死んでしまう。


「恨むぞ光秀…。儂に刀傷を浴びせたお前を許さぬ…」


命からがらの自分を助けたのは秀吉。


だがその秀吉からも、裏切られた。


残すは桃姫のみ。

桃のみ――
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