優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「織田軍、国境沿いに本陣を敷きました」


その報告を受けた謙信は全く気負わず、のほほんと欠伸をしていた。


「ああそうなの。意外と速かったねえ」


「その周囲を現在豊臣軍と甲斐軍が囲んでおります。これより1歩も先へは進めぬ模様」


軒猿の報告は重臣たちを喜ばせたが、謙信と三成は内心複雑な心境だ。

…数日で織田軍とは決着がつく。


次に決着をつけなければならないのは、己の感情――


「お父さんとお母さんがすぐそこに…!どうしよう、緊張してきちゃった…」


「まあまあ。桃の親御を先に奪還したいんだけど、できそう?」


「清野が現在動いておりまする。迂回路で回り込めば恐らくは」


「では私が迎えに行きましょう」


そう名乗りを挙げたのは元親で、驚く皆の視線を心地気に受け止めながら、謙信の前に広げられている地図の越中を指した。


「現在織田軍は信濃と越後の国境沿いに本陣を置いておりまする。でしたら越中に抜けて、海から越後へと向かえばよいのでは?私の水軍がお迎えに参りましょう」


「元親さん、ほんと!?」


桃がはしゃいだ声を上げて、謙信の心はそれで決まった。


「じゃあお願いしようかな。とても助かるよ」


本来元親の軍が本領を発揮するのは海の上。

…最近は桃に避けられてばかりだったので、上座から降りてきて手を握ってきた桃の嬉しそうな顔を見て、かつて愛した女子の面影が重なって、ふわっと笑った。


桃は元親が大広間から出て行くと今度は三成の隣に移動して、左近と三成を交互に見つめて瞳を潤ませた。


「すっごく嬉しい!」


「清野は優秀だ。佐助たちも合流するだろうし何も心配はないだろう」


「佐助さんって幸村さんの仲間だよね?幸村さんってやっぱりすごい!すごすぎるよ!」


「も、桃姫!」


ぎゅうっと抱き着いてきた桃の背中に腕を回したかったが重臣たちの視線があちこちから突き刺さり、幸村はやんわりと桃の身体を起こした。


「次は拙者の番です。一騎当千…いえ、二千の働きをしてみせます」


「うん!怪我しない程度に頑張ってね!」


それだけで十分。

その言葉だけで――
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