優しい手①~戦国:石田三成~【完】
元親が早々に春日山城を発ち、桃はそわそわとあちこちを歩き回っては、三成に叱られた。


「じっとしていろと言っている。身体に悪いぞ」


「…三成さんはいつもとおんなじだね。戦が怖くないの?」


元々頭脳派の三成は前線に出ることはほとんどない。

だが戦うのが怖いというのではなく、いかに味方から死者を出さずに城を落とすか…その才に、ずば抜けて長けていた。


「この城の構造もわかったし、いつか上杉と豊臣が袂を分かつ時は良い参考になった。…そんな顔をするな。責めているわけではないぞ」


――自分が元の時代に戻る時は、三成も尾張に戻るのだろう。

本当は、お園に傍に居てやってほしい。

それを密かにお園にお願いしてあるが、三成はきっと…それを受け入れないだろう。


「ごめんね、今私変な顔してた?尾張かあ…。さっき軒猿さんが言ってたけど、茶々さんも向かってきてるんでしょ?お姫様なのに大丈夫かなあ」


「茶々殿はお強いお方。そなたの何倍何十倍も荒波を乗り越えておられる。…今度のその顔はなんだ?」


また天守閣から越後の澄み渡った空気を浴びながら景色を眺めている桃の顔は果てしなく仏頂面で、三成は女を誉めるようなことはほとんどないので、軽く嫉妬を覚えた。


「別に。茶々さんにもお願いしておこうかな、“泣く三成さんを慰めてやってください”って」


「…」


鼻で笑ってあしらわれると思っていたのにリアクションはなく、不安に思って振り返ってみると、三成は壁にもたれかかって腕を組みながら、瞳を閉じていた。


「…三成さん…」


「別れはそなたのためだ。俺だって泣きもする。だが自分の脚で立ち上がる。何年…何十年かかろうとも」


「………ごめんなさい。つらいのはみんな同じだったね…」


――桃の髪もかなり伸びて、今では肩を越える長さになっていた。


その間の数か月…桃との記憶を全て失っていた時が、惜しい。

こんなにも傍に居たいのに、引き留められない自分自身に歯がゆさを感じる。


「…髪に触れたい。いいか」


「うん。…髪だけで…いい?」


桃に近寄ると強く抱きしめた。


この香りもやわらかさも全て忘れないように――
< 573 / 671 >

この作品をシェア

pagetop