優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その頃大広間の上座で一応畏まった顔をして座っていた謙信の元に、軒猿から情報が入った。


「秀吉公より親書を預かってきております」


「うん、ありがとう」


親書を受け取ってすぐに目を通すと、そこにはまた桃が苦労するようなことが書いてあって、苦笑の色を深めた。


「ややこしいことになりそうだなあ。ちょっと待ってて」


脇に控えていた兼続が筆とまっさらな文を謙信に差し出して、それにさらさらと何事かをしたためて封をすると軒猿に渡して腰を上げた。


「じゃあこれを届けておいて。私はちょっと上に行って来るから」


「御意にございます!」


兼続が軽快な返事をして、常に監視下に置かれている家康の肩を叩きながら大広間を出て行き、


天守閣へ行くと三成の膝に上がって見つめ合っていた桃を見て、聴こえるように大きく咳払いをすると、慌てて膝から降りながら正座をして笑いかけてきた。


「謙信さんお疲れ様!」


「うん。あのね、あんまりしたくない報告があるんだけど…聞く?」


やんわりと言うと桃は快活に頷いて、隣に腰を下ろした謙信の手を握って三成にむっとされた。


「どうしたの?」


「茶々殿も一緒にこっちに向かってるらしいんだけど…ちゃんとできる?」


――謙信が何を伝えようとしているのか、それだけでわかった。


…茶々が三成に想いを寄せていることを謙信は知っている。

意外と知られている噂ではあったが、秀吉はそれを気にしていなかったし、ましてや三成の態度があんな感じなのでそんな噂は笑い飛ばしていたのだ。


だが桃は茶々から直接三成への想いを聞いていたし、また三成からも茶々のことを何とも思っていないと聞かされていたのだが…


それでも不安になるのは仕方ない。


…そして不安になる自分をなんて厚かましい女なのだろう、と非難しながらも、笑顔を浮かべた。


「大丈夫だよ。三成さん、記憶を無くしてる時はお世話になったんだからちゃんとね」


「…言われずともちゃんとする」


ふっと笑った隣の謙信に目を遣ると、誰もがうっとりする笑みを浮かべて桃の頭を撫でた。


「ちゃんとお別れもするんだよ」


最後の別れを。
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