優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信は常に現実を目の前に叩き付けて来る。


…何とかして別れの事実を頭の片隅に置いておきたいのに、わざわざ手を突っ込んできてそれを中央に持っていかれて、現実から目を逸らそうとする自分を嗜める。


「笑顔でお別れ……頑張ります」


「うん。元親が俊敏に動いてくれてるから、私たちで織田軍を引き留めておいて、その隙に海側からこちらへ連れて来るのに数日。やっと会えるね、桃」


「うん。お父さんとお母さん…私のこと、わかるかな。すっごく小さな時に会ったっきりだから…」


――まだ妊娠しているかもわからないのについ腹を撫でてしまって、三成と謙信の視線が腹に集中しているのがわかって話を逸らすために団子の入った皿を引き寄せると、三成と謙信に1本ずつ手渡した。


「このままだとぶくぶく太ってお姉ちゃんたちも私のことがわからなくなるかも」


「桃の姉御たちのことだね。きっと美しいんだろうねえ、見てみたかったなあ」


「うん、みんないつも付き合ってる彼氏が違うの。彼氏が居ないのは私だけだったんだけど…ふふっ、でも私が1番かっこいい彼氏たちが出来たんだから自慢しなきゃ」


――彼氏“たち”。

複数形で言った桃がぱくっと団子に食いついて、複数形呼ばわりされた謙信と三成は揃って苦笑すると同じように団子を口にした。


「そうだよ、君は最高に惜しい地位を手放そうとしてるんだからね。ああ、私の心の傷を癒してくれるのは誰なのかな」


…桃が気にするようなことをわざと口にして、そしてしょげた桃に気付いておきながらも腰を上げて、桃に手を振った。


「じゃあ私はちょっと堂に籠もってくるから。三成、番を頼んだよ」


「…ああ」


「待ってっ、私も…私も行くっ」


案の定桃の気を引くことに成功した謙信だったが、振り返りもせずにさっさと行ってしまい、三成を振り返って唇を尖らせた。


「すぐ戻って来るからっ」


「俺のことはいい。行って来い」


――謙信はどうすれば桃の気を引くことができるか、熟知している。

あたかも昔から知っているかのようにして、最初からそういう態度を取っていた。


「前世でも、一緒だったか」


そう思わざるを得なかった。
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