優しい手①~戦国:石田三成~【完】
早足で廊下を歩きながら跳ねる心臓に言い聞かせる。


「かっ、からかわれてるだけだってば!」


――桃の時代でいう“ツンデレ”な三成の態度は、その普段のクールな態度とは違うギャップさがまた桃をきゅんと言わせていた。


「桃姫、こちらでしたか」


早速“姫”と呼んでくれている幸村に駆け寄った時、ちょうど屋敷の門の前では茶々が輿に乗り込んだところだった。


「あのっ、茶々さん、今度は私が遊びに行きますね!」


本物のお姫様に親しくされて嬉しくなりながら横に立っている幸村の手を握った。


がちがちになった幸村には気付かず、去って行く茶々に手を振り、その後すぐに三成がクロに乗り、馬を寄せて来た。


「俺も行って来る。桃、話の続きはまた夜にでも」


わざと言い含んでは顔色を変える幸村に挑戦的に笑いかけながら、なお名残惜しげに鼻を鳴らすクロの腹を蹴り、三成も居なくなる。


「三成殿…なんと挑戦的なお方よ」


「え?三成さんになんか言われたの?」


男同士の密かな戦いに気付くことなく見上げてきた桃の前でひざまずくとその小さな手を取った。


「桃姫、城下町の反物屋へと行きませぬか?着物の着用方法を指南を受けに参りましょう。拙者がお供いたします」


「わっ、それ助かるかも!幸村さんありがとっ」


…またぎゅっと抱き着かれて、おたおたとなりつつもついきつく抱きしめてしまった。


「幸村さん…ちょっと痛いよ」


「!こ、これは失礼を!ですが桃姫はなんとやわらかく、抱き心地の良いお方だ」


つい口走り、赤くなった桃につられるように真っ赤になった幸村は無理矢理話題を逸らした。


「こ、この天気では桃姫の服もすぐに乾きましょう。その後城下町へ…」


「あ、うん、じゃあそれまで茶々さんがくれたお着物を見てるね!」


部屋に戻ると、大きめの籐の箱には平民では一生働いても買うことのできないような高価な着物がぎっしりと入っており、

そのきらびやかさに桃の目も輝く。


「わあ、すごい!茶々さんにお礼のお手紙を書こうっと!」


早速机に向かい、筆を取る。

だが、茶々の悲しげな笑みは桃を少し心配させていた。
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