優しい手①~戦国:石田三成~【完】
茂とゆかりは人払いをされた別室に通された。


目の前には白い着物を着て腕を組み、やわらかい笑みを浮かべた上杉謙信。


そして目元がきつく、唇を真一文字に結んで謙信の隣に座っているまだ名乗っていない男。


「ああ、彼は石田三成。知ってるかな」


「し、知っています。石田三成氏もまた私たちの時代では語り継がれている武将ですから」


そう褒めても三成の表情がぴくりとも動かず、茂とゆかりが気まずそうにしていると、謙信が三成の肩を肩で押した。


「ごめんね、ちょっと偏屈なんだ。で…本題に入ろう」


…謙信の顔から笑みが消えた。

茂とゆかりはぴんと張りつめた空気と謙信の雰囲気に気圧されて、背筋を伸ばした。



「桃が身籠っているかもしれない。だから私と三成は桃を帰したくないんだ」


「…え!?桃が…妊娠を!?」


「そう。私か三成の子なんだ。…その辺は桃を責めないでやってほしい。色々あったんだ。色々…」



――タイムスリップした上に歴史をさらに狂わせて、その時代の人間と心を通わせて妊娠までした…?


眩暈を感じたゆかりが両手で口を覆って瞳を振るわせると、茂はゆかりの肩を抱きながら、表情をこわばらせた。


「桃は…こちらに残ると言ってるんですか?」


「…いや、違うよ。さっき言ってたでしょ、“一緒に帰ろう”って。でも私たちはそれを望んでいない」


――ありのままを語り、真実を伝えようとしてくれている。


「さあ、どこから話そうかな。とりあえず出会いからかな。三成頑張って」


「なに…?あ、いや、その…俺は…」


茂とゆかりから見つめられて口ごもってしまった三成は、桃によく似ているゆかりに見つめられて、瞳を細めてはにかんだ。


「…俺の屋敷の庭に桃が――」


今までの出来事を、全部――


――その頃桃の元には政宗が来ていた。


いつもぷらぷらとどこかへ出かけているので最近話す機会は少なくなっていたのだが、この無邪気な独眼竜は桃の口に蜜柑を入れてやりながらからからと笑っていた。


「そうかそうか、親御が!これで思い残すことなく合戦ができるぞ!」


そして最終決戦へ。
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