優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成が語った桃との出会い。


言葉数が少なく、それでも一生懸命語ってくれた三成に好感を覚えた。


「そうですか…。そんな大変なことが…」


「私は毘沙門天から天啓を受けて尾張へ出向いた。…桃とははじめて会った気がしなくてね。振り向いてもらうために必死だったなあ」


謙信がのんびりそう言いながら茶を口に運ぶとようやく場が和んで、笑顔が浮かんだ。


「桃が妊娠…。私たちは娘を責めたりしません。もしかしたら私たちがあの子をここへ呼んでしまったかもしれないから」


「石が願いを叶えた、ということかな?で、石は割れているけれど…それで元の時代に戻れるの?」


――それが最大の不安要素だった。


桃の石は元々欠けている。

ゆかりの石は信長に奪われまいと自ら割ってしまった。

そして茂の石も欠けていて、欠けた石は行方不明だ。


「桃が戻りたいというならいちかばちかやってみないことには…」


「あなた…私、桃のところへ行ってきます」


居ても立ってもいられなくなったゆかりが腰を上げると、隅で控えていた幸村が立ち上がった。


「拙者がご案内いたします」


「あ、ありがとうございます」


――六文銭の印のついた手拭いを腕に巻いているこの男…

もう誰だかわかっていたが、ゆかりも頭を下げると桃の部屋まで無言で案内されて、そして部屋の中に居る男に言葉を失った。


「おお、そなたが桃の母御か。よく似ているな!」


「あ、あなたは…」


右目に眼帯。

若々しく自信に溢れた男は自ら名乗った。


「俺は伊達政宗。もう話は聞いてきたのだろう?というわけで、俺も桃を愛しく想っているから元の時代には戻したくない。以上だ!」


豪快に笑い声を上げた政宗に対して桃が苦笑しつつ、頬を染めて声をかけてきた。


「お、お母さん…」


「桃…私たちを捜しに来てくれたのよね?ありがとう、苦労をかけたわ…」


「ううん、無事でよかった。謙信さも三成さんも良い人でしょ?」


「ええ本当に」


「桃!俺の名が挙がってないぞ!」


――名将たちに囲まれてもなお桃は怖じ気ない。


ゆかりは涙ぐんだ。
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