優しい手①~戦国:石田三成~【完】
あっという間に乾いたセーラー服を着ると軽やかな足取りで幸村と合流した。


「幸村さんお待たせっ」


「はっ、あ、桃姫…何やらその…」


口ごもる幸村の視線が自分の太股に向けられていることを知り、桃はぴらりとスカートを少しめくってみせる。


「み、見えてしまいます!」


「なんか縮んだぽくて短い感じするよね?まいっか!」


あっけらかんと言っては門を潜る桃の後を幸村がついて行く。


「その…奇妙なお召し物は一体…?よくお似合いですが…御脚が…」


なんとか視線を逸らそうとするが、どうしても太股から目が離せずに幸村の顔色は目まぐるしく変わっては冷や汗をかく。


「これしか持ってないんだもん。後は三成さんがくれた浴衣と茶々さんがくれたお着物と…」


――嘘をつくことが心苦しいが、三成との約束を破るわけにはいかない。


だから視線を下げた桃の態度に幸村はまた感極まり、桃の細い肩を抱いた。


「桃姫、越後へと拙者とおいで下されば、拙者が…!」


――往来で熱烈に繰り広げられた幸村の告白に、通りを歩く町民たちが笑いながら見ていて、さらに鈍感な桃は幸村の肩を落とすようなことを言ってのけた。


「越後に旅行かー、それもいいね!でも私は探しものがあるから…」


…酒の力でも借りなければ、桃に求婚する勇気もない幸村は首を振って雑念を追い払う。


「いや、まずは殿にお許しを頂かなくては…」


「そういえば…“のきざる”ってなあに?お猿さん?」


額に浮かぶ汗を拭いながら幸村は、ははっと声を出して笑った。


「“軒猿”は上杉に仕える忍者であり、殿の身辺警護も務めております」


へえ、と言った桃の脚を今だチラ見しつつ眼福な幸村は…一応くぎを刺した。


「桃姫…上杉謙信公についてなのですが…」


「うん、どんな人なの?」


ある意味三成よりも強力な好敵手となるかもしれない男。


「普段はのんびりとしたお方ですが、戦になれば勇猛果敢な方です。物腰やわらかく、たいそう女子にも人気がおありなのですが…」


天下に興味はないのに、尾張に乗り込む決意をした謙信…


幸村は気が気ではなかった。
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