優しい手①~戦国:石田三成~【完】
――三成の横顔は冴え冴えとしていて、どこか冷たい印象を与えていたが桃は一向に気にせずに、自分の考えを口にした。


「三成さん、お願いがあるんですけど」


「何だ?」


ふっとこちらを見つめてきた三成に、桃は若干ドキドキしながら着ている浴衣を指す。


「私、ここで探してるものを見つけるまで帰れないんです。その…よかったらここに置いてもらえたらいいかなあって…。浴衣も申し訳ないし」


――まだ三成は見つめ続けたままだ。

余計に緊張した桃は早口でまくし立てた。


「そうだ、バイト!ここでバイトするんで置いてもらえないですかっ?」


「…ばいと?」


聞き慣れない単語に三成が首を捻った。
はじめて人間らしい仕種を見せたので桃はホッとしながら頷いた。


「あ、えっと…バイトっていうのはつまり…ここで働かせてもらえたらなって…。こう見えても料理は得意だしお掃除も好きだから……駄目?」


どんどん尻すぼみする桃を面白いものでも見るかのようにしていた三成が…笑った。


「いいだろう、この屋敷でよければ居るといい。だが男所帯。耐えれるか?」


「多分平気!わあよかった、ありがとう!これからよろしくね!」


三成と握手をしようと差し延べた手を、三成は見つめながらまた首を捻る。


「…これは?」


「えっ?あーそっか握手の習慣もまだなのかあ。えっとこれはね…」


――桃は三成の右手を取ってがっちり握手を交わした。
…無理矢理だが。


それに過剰反応したのは三成だった。


「な、な…っ」


「今のが握手ね!信頼の証ってゆうか…これから仲良くしよ、ってこと!」


からからと笑いながら桃は脚をぶらぶらさせていたが… 三成は普段の冷静さを失いかけていた。


「…女子がそのようにするものでは…」


「ハグの方が私は好きなんだけど…三成さん怒りそうだからやめとこっと!」


「は、はぐ…?」


随分先の時代からやって来たという桃に三成は混乱しっぱなしだった。


「ハンバーグは明日作るね!お買い物行かなきゃ♪」


「…はんばーぐ…!?」


…早くも嵐の予感がしていた。
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