優しい手①~戦国:石田三成~【完】
反物屋へと脚を運び、一通りの着付け方を教わった桃は、着せてもらった藤色の振袖を着て、待っていた幸村の前に現れた。


「幸村さん、これ、すっごく可愛い!」


武将らしく、背筋を伸ばしたまま座って待っていた幸村が振り返り、あっという間に顔色を赤く変えるのを見て、くるくると目の前で回ってみせた。


「茶々さんがくれたお着物もなんかすごく高そうで…着れそうにないけど、三成さんにお願いしてみようかなあ」


大坂城の城下町は途方もなく広く、三成の屋敷周辺でしかまだ散策をしてない桃だったが、

その奇抜な格好と突き抜けた明るさ故に桃をこのあたりで知らない人間など居ないも同然で、反物屋の主人も揉み手をしながら追随した。


「三成様なら贈って下さいましょう。お申し付け下さればすぐにでも手配を…」


「えっ、えっと…や、いいのいいの!お着物とか着慣れてないしこれ、高そうだし…」


「では拙者から贈らせてもらいましょう」


それまでずっと俯いていた幸村がきっと顔を上げて主人に金を支払ったのを見た桃は慌てて服の袖を引っ張った。


「だ、駄目だよ幸村さん!これはただ練習にって着せてもらっただけで…」


「いやいや、桃姫によくお似合いだ。今宵はゆっくりと拙者にその艶姿をお見せください」


歯に衣着せぬ物言いの幸村に、桃はぱっと顔を輝かせて、痩身の幸村に抱きつく。


「ありがとう幸村さん!大切にするね!」


「そんなに喜んで頂けるとは…拙者も嬉しい限りでございます」


そっと背中に腕を回すとすりすりと胸に頬をすり寄せてきたので、


人前ではあったが、戦場で鬼神の如くの戦いぶりを見せるこの男は、その場で桃を押し倒してしまいたい欲求にかられた。


「でもこのままだと歩きにくいから…着替えて持って帰るね!待っててね!」


再び奥の部屋へと消えて行った桃を見送りながら幸村はため息をつく。

また忍び笑いを漏らしていた主人がこそっと耳打ちしてきた。


「あの子は気立てが良いですが…少々鈍い様子。苦労しますなあ」


「は…いやはや、その…」


赤くなり、口ごもる幸村を主人は桃が戻るまでからかい続けた。
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