優しい手①~戦国:石田三成~【完】
早速箝口令が敷かれた。

謙信の周囲はほぼ重臣で固められていたので、それは容易かった。

重臣たちの絆は固く、桃が三成と謙信を選べずにこの世界へ残ったと知っても、それを一切責めたりはしなかった。


「桃…一旦寺に戻ろう。状況を整理して……いや、整理しなければならないのは私たちの方かな」


儚く微笑んだ謙信は兵をまとめるために忙しく、ここへ残ると決めたがこれからどうすればいいのかわからずにまごついていた桃の手を引いたのは、三成だった。


「クロに乗れ。これから謙信は忙しくなる。その間は俺が傍に居る」


いつも尖っている切れ長の瞳はやわらかく笑んでいるように見えて、身体を軽々と抱えてクロに乗せられると、クロが嬉しそうに鼻を鳴らした。


「桃姫!せ、拙者は…先程…その…申し訳ありませぬ!」


「幸村さん…ううん、すっごく嬉しかった。私…これからもお世話になってもいいと思う?」


「当然です!拙者、終生桃姫にお仕えいたします!どうぞお傍に…」


「こらこら幸村、君の主君は私だよ。さあ、兼続、幸村、忙しくなるから手伝って」


「御意!」


――三成はその間ずっと黙っていたが、胸が熱くなり、震える息を吐くと手綱を握る桃の手をぎゅうっと握った。


「み、三成さん…?」


「…残ってくれて…その……嬉しい。……なんだその顔は」


「だって…喜んでもらえて私も嬉しい。三成さん…顔真っ赤だよ?」


「な…、やめろ!俺をからかうと仕置きをするぞ」


「きゃーっ!」


わき腹をくすぐられてもがくと、先頭でてきぱきと指示を出していた謙信が唇をとがらせながら振り返った。


「いいなあ、私も早く桃を触りたいよ」


「助平発言をするな。きりきり働け」


――何故か皆からよく叱られる謙信は怒りもせずに肩を竦めると、敗走してゆく黒山の織田軍の大群を遠目に見ながら併走する兼続の肩を叩いた。


「どうしようかな」


「城に戻ってじっくり考えればよろしいのでは?」


何をどうする、と言ったわけでもないのに、主君の心情を読み取った兼続は豪快に笑いながら旧友の三成と謙信の顔を見比べ、心晴れやかに馬を走らせた。
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