優しい手①~戦国:石田三成~【完】
先日本陣を張った山まで戻る間、景虎と合流した桃は景虎に涙ぐまれていた。


「桃姫…やはり父上を愛しておられるのですね!残って下さると信じておりました!」


「えっと…あの…うん…私もちょっと混乱してて…でもここに残りたいって思ったから…」


「桃、今後の話をしよう。さあ、おいで」


寺まで着くとひらりと馬から降りた謙信は僧帽を取り、小さな笑みを浮かべながらクロから桃を下ろした。


今後の話、というのは…三成と謙信、そして桃にしかできない。

景虎や幸村、兼続は彼らの密談を盗み聞きされないように寺の周囲を固め、最高に緊張してしまった桃はずきずきと痛む胃を押さえながら中へと入った。


「あの…謙信さん…お疲れ様でした。三成さんも助けてくれてありがとう」


「まさか首だけになっても話せるとは思ってなかったよ。怖い思いをさせてごめんね」


「蘭丸が自軍に潜んでいるのはわかっていた。囮にしたようですまぬ」


お礼の言葉を言ったのに2人から返ってきたのは謝罪の言葉。

…相変らず大切にしてくれているのがとても嬉しくて、ぺたんと床に座ると大きな木造の仏を見上げた。



「私…ここに残っても平気なのかな。あの…女中さんでもいいから働かせてもらってもいい?すっごく頑張るから…」


「何を言ってるの?君は私の妻に………おっと、三成もそう思ってるかな。さあ、どうしようか?」



――三成はただじっと黙っていた。

桃と謙信の前世から続いている縁の正体を知った時…正直に言って“適わない”と思ったのは事実だ。


だが桃は1人で…自分たちは2人だ。

どう考えても3人で幸せになる方法が見つからず、桃がいつも好きだと言ってくれる手に視線を落としながら低い声で呟いた。


「…考える時間が欲しい。桃が身籠っているかどうかわかるまで考えたい。…駄目か?」


「ううん、私はいいんだけど…私は…決められないから…」


だからこそ、今まで悩んできたのだから。


「まあとりあえず今日は宴といこうか。今日は沢山飲もうかな」


「駄目だよ謙信さん、飲み過ぎは駄目!」


三成は、ただじっと黙っていた。
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