優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その夜の宴は大盛り上がりとなった。

重臣から農民上がりの兵まで分け隔てなく酒と豪華な食事が振舞われ、甲冑を脱ぎ、刀を置き、笑い声と喧騒に包まれる夜はとても賑やかで、その輪に加わっていた桃は途中三成と謙信の姿が消えていたことに気付き、幸村と手を繋ぎながら寺へと戻った。


「拙者はここで番を致しますので」


「そう?一緒に中に入ればいいのに」


どんなに説得しても頑として聴かず、頼もしい男の手を離すと中へと入り、盃を交わしている三成と謙信を見つけて手を振った。


「どうしてみんなと一緒に居ないの?」


「ん、一応人の命を奪ったわけだし、私は咎人だ。魂も身も清められるまでは仏と共に居たくてね」


「俺は…越後を去るかもしれぬ故、謙信公と話がしたかった」


「え…」


それは桃にとって寝耳に水で、目を見開きながら隣に座ると食い入るように三成の横顔を見つめ、手を握った。



「どうして…?どうして戻るなんて…」


「…俺は尾張の豊臣秀吉様にお仕えする者。信長が死に、秀吉様の名代としての立場もこれで終わった。もう越後に居る意味がない」


「そんな…!だって…私…」


「常に考えていたことなのだが…桃…そなたは謙信公の正室になった方がいい。…いや、そうしてくれ」



突然の告白に謙信も盃を傾ける手が止まり、愕然とする桃と冷静な三成の顔を見比べると静観を貫いた。

…そうしなければいけないと思った。



「先ほどは身籠ったことがわかるまで、と言ったが…そなたと謙信公は前世で今生での契りを誓い合った。それを俺が引き裂くのか?そして来世でまた謙信公と巡り合うと?それでは本末転倒だ。それにそなたは毘沙門天に導かれてやって来たんだぞ。その途中誤って俺の屋敷に落ちたんだ。…幸か不幸か、それでも俺は幸せだった。だから桃…謙信公の正室になれ。それが俺の願いだ」


「…三成さん…でも私、三成さんも謙信さんも選べないの!おんなじくらい好きだから、2人に傍に居てほしいの!我が儘だってわかってるけど…でも…どうして…!?」



三成は瞳を伏せた。

そして謙信が、口を開く。
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