優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「その件について、さっき秀吉公と話をしたよ」


「…なに…?」


秀吉から謙信と密談を持ったという話を聞かされていなかった三成は眉をひそめ、盃を脇に置いた。

それは桃も知らなかったことなので、同じように謙信を食い入るように見つめると…この男は平然と言ってのけた。



「私に天下を預けたいんだって。私がこの国をまとめなければ、再び乱世の戦国の世になるだろうって半ば脅されたよ」


「…それと俺に何の関係が…」


「参謀として私の脇を兼続と三成が固める。三成…君は尾張から放出されたんだよ」


「……!」



一瞬頭がかあっとなったが、少年の頃から秀吉の傍で全てを見てきた三成は瞬時にして秀吉の想いに至った。


桃と…桃と一緒に居させてやるために、尾張から出て越後で暮らすようにと願ってくれたのだ。

それは、真の親心。


その親心を踏みにじって尾張へ戻ったとすれば、秀吉は激怒するだろう。

…あの好々爺は怒らせるとものすごく怖いのだ。



「…秀吉様が…」


「というわけで、君と私の立場は未だ同じなんだよ。桃、どう?これで対等でしょ?」


「謙信さん…」


「だから私はこの国をまとめなければならなくなった。君と兼続が支えてくれるんだったら天下なんてあっという間に手に入るよ。…桃、君はそれをどう思う?」


「え…え…、わかんないよ…。でも…三成さんがここに残ってくれるのなら…」


「…桃…」



――出会った頃は冷たくてどうしようかと思った男は、みるみる優しくなり、愛してくれるようになった。

三成が居ない人生は考えられない。

また、謙信が居ない人生も…


「じゃあ決まりだね。私はこの国に泰平をもたらす。三成、君には私の摂政として兼続と共に支えてもらうよ。いいね?」


「…わかった」


重たい腰を上げた越後の龍。

彼が本気を出せば天下などあっという間に手に入ることは皆が信じて疑っていない。

…三成も。


「天下が手に入るまで、今後私たちがどうするかは保留にしよう。それでいいね?」


「うん!…あれ…?」


「桃?」


腹に鈍い痛みが広がり、顔をしかめた。
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