優しい手①~戦国:石田三成~【完】
翌朝謙信は重臣を集め、仏の前で座したまま静かに告げた。


「私がこの国に平定をもたらす。各国にその旨通達を。納得できないということであれば、戦う。その時には君たちに頑張ってもらうことになるけど…どうかな?」


「と、殿が…天下を…!?あれほど嫌がっておられましたのに!」


ざわめきがどよめきに変わり、謙信の隣でそわそわしていた桃に一斉に皆の視線が集中した。


「まさか…桃姫の為に天下を…?」


「うん、まあそれも一理あるんだけど。秀吉公はもうお歳だし、信長亡き後この国が混沌とした状態になることは目に見えている。その前に先手を打つんだ。国主になれるかどうかはわからないけどね」


謙信に気負った様子は一切なく、同席していた秀吉や政宗らは胸が熱くなり、腰を浮かせて拳を振り上げた。


「貴公ならできる!俺たちが協力する故、気を引き締めていけ!」


「気は引き締まってるってば。まあとにかく私なりに頑張るから。敗けたらごめんね」


「謙信公に勝てぬ者など居らぬ。何せあの信長を討ったのじゃからな。わっはははは!」


――上杉軍は再び高揚感で満たされた。

謙信が天下獲りを…

誰もがそれを望み、半ば諦めかけていたが…とうとう重たい腰を上げて皆に宣言し、感極まった兼続は隣の三成の膝を何度も叩き、謙信は微笑を浮かべて桃の手を取ると、寺の外へと出た。


「殿、城へ戻りましたらすぐに各国へ通達を出します。これは言わば挑戦状ですな」


「宣戦布告…とまではいかないけど、とりあえず国を誰かまとめる者が必要でしょ」


「では…上洛を!?」


勇む兼続に詰め寄られた謙信は笑い声を上げ、牽制した。


「違うよ。私は一時的に大名たちをまとめる係。私以外に天下を任せることのできる者が現れたら喜んで譲るよ」


桃を見つけて前脚をかいて喜ぶクロの横を素通りすると、用意させていた輿に桃を誘導した。


「謙信さん?」


「月のものが始まって身体がつらいでしょ?城まではこれに乗って大人しくしていてね」


「これくらい大丈夫だよ、だから…」


「駄目。三成、随行を」


無言で頷いた三成は桃と目を合わせ、小さく笑い合った。


謙信に天下を。

再び一丸となり、動き出す。
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