優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その頃別室では幸村や元親、政宗らが同じように盃を交わしていた。


桃がこの時代に残る決意をした――


三成か謙信か、どちらの手を選ぶのかはまだわからなかったが、この時代に残ってくれるというだけで十分だ。

一同は桃と、謙信の鬼神の如き一閃を酒の肴に盛り上がっていた。


「やはり桃は謙信の側室に治まるべきだと俺は思う。桃と謙信は何か特別な何かを互いに感じているように思えるのだ」


「拙者もそう思いますが…ですが拙者が三成殿にお会いした時は、あの2人は想い合っているように見えました。…複雑です」


「俺は桃姫に想いを告げず恋に破れてしまった。謙信公か三成殿のどちらかを選べぬというのであれば、俺も参戦して…」


「それは遠慮して頂く。拙者が全力で排除する」


強気の幸村がぎっと睨むと、元親は肩を竦めて面白そうに静観していた政宗に目を向けた。


「貴公も桃姫を?」


「桃姫は俺のものになるはずだったが、どうやら俺では幸せにできぬらしい。とにかく俺は…奥州は越後に歯向かう気はない。土佐はどうだ?」


「こちらもそのつもりはありませぬ。信長を討ったのですから、堅苦しい話はやめませぬか」


「うむ、そうだな。よし、今宵は朝まで飲むぞ!」


――そうやって盛り上がっている間、ざるの三成と謙信は時々隣室の桃の寝顔を交互に見に行ったりして延々と飲み続けていた。


謙信は大らかで、三成は堅苦しい性格をしているが…色々話しているうちに意気投合し、互いの拳を軽く打ち合わせた。


「私たちは相変わらず受け身だけれど、まあ一応攻めた結果だからね。身籠ってなかったのは正直ちょっと残念だったかな。君は?」


「…俺も残念だったが、例え貴公の子であったとしても喜んだと思う。貴公はどうだ?」


「うーん、君の子だったらまず目元が違うだろうからねえ。私と桃の子だったら目元は垂れているはず。小さな頃は可愛がるだろうけど、大きくなるにつれて君に似てきたらいじめちゃうかも」


「ふん。貴公とはやはり考え方が合わぬ」


「ふふふ」


おちょくり合っていると少しだけ襖が開き、桃が目を擦りながら顔を出した。

早速ぷんと香る酒の匂いに顔をしかめると、勢いよく襖を開いて空気を入れ替えた。


「謙信さん!お酒駄目!」


早速怒られ、三成と謙信は苦笑いした。
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