優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃を真ん中にして川の字で眠り、手を繋いでくれた優しい手は桃を朝まで眠らせることはなかった。


右を向けば三成が。

左を向けば謙信が。


こんな贅沢なことはあるだろうか?


「女子高生の時には考えられないことだったな…」


「“じょしこうせい”って何だい?」


桃が左を向くと、早朝まだ陽が上っていない時間帯にいつもすでに起きている謙信が人差し指を唇にあてて声を出さないようにすると、腕枕をしてくれた。

そっと右を向くと三成が起きている気配はなく、少しだけ謙信に身体を寄せると小さな声で意味を教えた。


「“女子高生”っていうのは、女の子が毎日学校に通って勉強して、いい大学に入っていい就職をするための……ううん、もう私には関係ないことだし知らなくてもいいよ」


「知らないことは知っておきたいのが人間だよ。女子が勉学ねえ…。あまりぴんとこないけど、桃は勉学が好きなの?」


「ううん、全然。謙信さんも嫌いでしょ?三成さんは沢山勉強してるって感じだけど」


「彼はうちの兼続と同じくらい数限りない戦法を知っているからね。私は鬼に金棒というわけ。大将に腰を据えてはいるけど、ただ座ってるだけ。それで天下が手に入るかもしれないんだからもうけものだよね」


「…この道楽が。少しは攻められたときのことを考えろ」


いつの間に起きていたのか三成がまた謙信を叱り、腕枕をしている謙信の手の甲を思いきりつねった。


「いたたた。これも抜け駆けに入るのかな?少し規律を緩めてほしいんだけど」


「緩めると貴公は何をしでかすかわからぬ。桃、身体は…その…大丈夫か?」


「え?うん大丈夫。心配してくれてありがと」


今度はもそっと三成に身体を寄せてくっつくと、照れ屋で恥ずかしがり屋の男は顔を赤くして眉根を寄せた。


「は、離れろ。桃、しばらくは城にじっとしていてくれ。いつ攻められるかもわからぬし、忍が襲ってくる可能性も…」


「1週間位はじっとしてるよ。ね、お腹空かない?起きてご飯食べようよ」


緊張感のない桃が起き上がると、謙信は桃の手を引いて振り向かせ、頬杖を突きながらお堂の方を指した。


「私は毘沙門天に祈りを捧げてくるけど君はどうする?色々と報告しておきたいんだけどなあ」


「じゃあ一緒行く!」


三成は文句を言わなかった。

それが自然だと思ったから。
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