優しい手①~戦国:石田三成~【完】
いつまで経っても桃が戻って来ないので、三成と謙信が桃を捜しに方々歩き回っていると、1階の中庭側にある廊下に幸村が座っているのを見つけて声をかけた。


「幸村?桃はどこに居るのかな?」


「あちらに。何やら花の汁を絞っておられるようで…。最近城下町の女子たちに大人気だとか」


「へえ?桃の影響力はすごいねえ」


草履を履いて庭に下りると、花を植えている一角に桃が背中を向けて座り込んでいて、謙信は気配を殺して桃の後ろに座るとお尻をぺろんと撫でた。


「きゃっ!?け、謙信さん!お尻撫でるのやめてっ」


「身体がつらいだろうに部屋でじっとしていた方がいいよ」


「部屋に居ても暇だし…ここでいろんな花の汁を絞って集めて研究しようかなって思ったの。あのね、私の時代にはマニキュアっていうのがあるんだよ。それと同じようなものかな」


「爪の色を変えるのか?そういえば時々爪の色が違っていたな」


小皿に青や赤、橙など色とりどりの汁を溜めていたのを三成に見せた桃は、桃色に染まった自身の爪を見せてにこっと微笑んだ。


「女の子はいつだっておしゃれしたいんだから。三成さんにもしてあげよっか?」


「い、いい!やめろ、勝手に塗るな!」


無理矢理三成の手を取って塗り始めたので慌てて手を引っ込めた時――門の方から騒がしい声が聴こえた。


のんびりとした動作で謙信が腰を上げると、兼続が転びそうな勢いで走り抜けた後庭に謙信が居るのを見つけて急ブレーキをかけると庭に駆け降りた。


「殿!い、一大事にございまする!」


「どうしたの、騒々しいなあ」


兼続は袖で額の汗を拭いながら膝をつくと謙信を見上げた。


「近隣諸国から大名たちが続々と城に集結しておりまする!“戦の意志なし”とのこと!皆降伏を申し出ておりまする!」


その報告に桃たちは顔を見合わせると、謙信はまるで緊張感もなく頬をぽりぽりかきながら兼続の肩を抱いて廊下に上がった。


「じゃあ正装しなきゃいけないってこと?だるいなあ」


「殿!威厳をお持ちになって下さいませ!殿は天下獲りにおなりになるのですぞ!ああこれから忙しくなるぞ!」


意気込む兼続に対して、謙信は相変わらずのんびり。

そのギャップの在り様に桃と三成は顔を見合わせて笑った。
< 645 / 671 >

この作品をシェア

pagetop