優しい手①~戦国:石田三成~【完】
すでに上座のある大広間には大挙してやってきたどこかの国の大名及び重臣たちが集い、熱気でむんむんしていた。


謙信といえば兼続に無理矢理着せられた肩衣と袴という着慣れない格好にさせられて、上座から皆の顔を眺めていた。


「緊張しているねえ。まあ気負わず本音を語り合いましょう。私になにか聴きたいことは?」


謙信の前で冷や汗をかいているのは陸奥国を統治している二階堂氏で、謙信よりも倍以上長く生きている重鎮は満足に言葉を発することができずにどもりながらそれを口にした。


「け、謙信公におかれましてはあの織田信長を討ったとか…」


「ええ、首だけになった信長とも会話を交わしましたよ。彼はなかなかしぶとかったなあ」


ひとりのほほんとしている謙信が茶を啜りながらぼやくと、その態度が余計に真実味を増したのか…皆がごくりと喉を鳴らした。


「見たいですか?一応首は持ち帰っていますけど。でも私の寵姫がいやがるだろうから後でこっそりお見せしますよ」


「寵姫…。信長と奪い合ったという姫がいらっしゃるとか…」


「ええまあ。恥ずかしがり屋なのでここには来ないかもしれませんが……や、来たみたいですね。紹介しましょう」


まだ足音も聴こえず気配もないのに謙信が微笑むと、しばらくしてから襖の向こうで蚊の鳴くようなか細く高い声がした。


「あ、あの…謙信さん…」


「入っておいで。沢山人が居るけど気にしなくていいよ」


――すらりと襖が開いた瞬間、二階堂氏たちは息を呑んだ。

しずしずと中へ入ってきたのは“超”がつくほどの美姫で、だが瞳はくるくるとよく動き、活発な印象を受けた。


この時代もっとも美しい姫は茶々だと言われていたが…今目の前の姫は茶々にも引けを取っていない。


「こちらは私の寵姫で桃姫と言います。桃、挨拶を」


「はい。あ、あの…桃と申します。以後お見知りおきを…」


緊張してしどろもどろになると、豪快な笑い声がすぐ傍で爆発した。


「ははははは!桃姫、いつもの調子はどうした?今は隠し通せていてもいずれ露呈する故いつもの調子で話した方がいいぞ」


「ひどいよ政宗さん!私だって時々は大人しくなるんだから!」


「極々時々だな。二階堂殿、我らはこれより兄弟の盃を交わすのだ。異論あるまいな?」


蛇に睨まれた蛙状態の二階堂氏はかくかくと頷いた。
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