優しい手①~戦国:石田三成~【完】
上座の謙信の隣に移動した桃は、着飾られて居心地が悪そうにしている謙信を見て噴き出した。


「謙信さんが似合わない格好してるー」


「これが正装なんだよ、一応ね。君こそまた化けたものだねえ。まあ私はいつもの桃も大好きだけれど」


…いちゃいちゃし始めてしまい、二階堂氏たちが顔を見合わせていると、遅れて大広間へやって来た三成が秀吉と共に入ってきた。

一気にまた場に緊張感が戻ったが、秀吉は綺麗に着飾った桃に目を丸くしつつ、皆が自然と秀吉のために場を譲って割れ、人の波を縫って謙信の前に座った。


この時代、信長が倒れた後は秀吉が天下を獲るものだと皆が思っていたが…


「これはこれは!また綺麗に着飾ったのう!なんじゃ、この場は桃姫の披露の場なのか?」


「違いますよ、彼らが私と戦う意志がないことを示しにやって来たんです。私の寵姫の紹介はついでということで」


“私の寵姫”という言い回しに三成の眉が一瞬動いたが、動じずに政宗の隣に腰を下ろすと腕を組んで瞳を閉じた。


「で、本題に入りましょうか。わざわざここまでやって来たのは不戦の意志を私に伝えるためにですか?」


「私たちに謙信公と戦う意志は全くございませぬ。私がここへやって来たのは北の総意と思って頂いて結構でございます」


「北の意志か。俺の所にはそういう話は来ていないようだが?」


「政宗公におかれましてはすでに謙信公の軍門に下っているという報がございましたので…」


「まあ異論はないが。とりあえず血判書が必要だな。署名が終われば我らは兄弟だ。裏切りは一切許さぬぞ」


何故か政宗が取り仕切っていたが、謙信は兼続とてきぱきとあれこれ取り仕切りたがる政宗に一任していたので、軽く頷きながら桃の肩を抱き寄せた。


「それでいいよ。別に裏切ってもいいけど、その後のことは知らないからね」


「……!」


この時代裏切りなどよくあることだが、“義”を心情とする謙信を裏切ればどうなるか…誰もが背筋を震わせると深々と頭を下げた。


――桃は萎縮して頭を下げている皆を見ながら、謙信が成し遂げた偉業を改めて感じていた。


「桃、どうしたの?緊張しちゃった?」


「緊張するよ…。謙信さんってやっぱりすごいんだね」


「ふふ、今さらだね」


皆に見えないように手を握ってきた謙信の手は、優しかった。
< 648 / 671 >

この作品をシェア

pagetop