優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その後も我先にと続々と春日山城へ集結してくる大名たち――


従って謙信はほとんど上座から降りることができず、あまりじっとしていられない桃は幸村と共に席を立った。


「ちょっとお散歩してきていい?」


「私も行きたいなあ」


「殿!今しばらくご辛抱を!」


兼続に強く引き止められてしまった謙信は塩大福を口に放り込みながら泣きべそをかいた。


「こんなことなら大役なんか引き受けるんじゃなかったかなあ」


「貴公が引き受けぬつもりならば桃は尾張へ連れて行くがいいか」


ものすごく小さな声で三成が釘を刺すと、各国の大名がまだ勢ぞろいしている中謙信は唇を尖らせつつも肩を竦めた。


「もうちょっと我慢しようかな」


「謙信さん頑張って」


桃に励まされてちゃんと居住まいを正したのを確認した桃は秀吉や政宗、景虎と景勝義兄弟に手を振ると大広間を出て庭に下りた。


「緊張するねえ。私は全然関係ないんだけど」


「関係あると思うぞ。そなたはいずれ謙信の正室となるのだから」


「…」


――それに応えない桃が池の前でしゃがむと、今まで黙っていた幸村が三成にひそりと囁いた。


「桃姫はまだ迷っておられるので…?」


「…ああ。俺は桃が謙信の正室に治まるのが最良の策だと思っている。前世から続く縁を絶ち切る真似はしたくはない」


「前世…?」


幸村はその事情を知らないので閉口していると、それ以上突っ込みを入れてこなかった幸村は同じように庭に下りていた家康を見止めて声をかけた。


「何をしておられるのですか?」


「…先程信長公の首を見た」


「ああ…それで」


いっときは主君だった信長は首だけになり、前線に居なかった家康は謙信と信長との対決の場に立ち会うことができなかった。

だが返り血を一滴も浴びず、また微笑みを絶やさなかった謙信は…信長よりも怖い生き物に見えた。


「私は私の判断が正しかったのか…わからぬ」


「殿がこの国を建て直して下さるでしょう。…で、家康公は今後敵なのかお味方なのか…道筋を殿に示すべき時ですが」


強い眼力でひたと見据えて来る幸村に対し、家康は弱々しく微笑んだ。


「…従う。三河が生き残るべき道はそれしかない」


家康の天下獲りの道は、完全に閉ざされた。
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