優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その後謙信の手を引っ張って自室へ戻ると、謙信が心を許している面々だけで夕餉を摂り、謙信と三成と桃だけになると急に正座をした桃に2人が顔を見合わせた。


「桃?どうしたの?」


「私ね…決めたの」


「…」


2人とも“何を”とはさすがに聴いてこなかった。

謙信が天下を為すことはもう決まったようなもの。

この勢いで毎日大名は押し寄せて来るのだろうから、今ここで自分の決断を2人に聴いてほしかった。


「もう私が何を言いたいかはわかってるんでしょ?」


謙信は頬をかき、三成は居住まいを正して桃に向き直り、桃はがちがちに緊張しながら2人を見つめた。


「まあわかってはいるけれど…それって答えは出るの?出ないから君は苦しんでいたんでしょ?」


「そうなんだけど。でも決めたの。聴いてほしいの。…いい?」


2人が頷いたのを確認すると、桃は単刀直入にストレートに想いを口にした。



「私…謙信さんのお嫁さんになります」



…元々そう説いていた三成はやや表情を強張らせたがすぐに頷き、笑みを見せた。


「それがいい。ようやく想いが叶うのだから、喜ばしいことだ」


「でも続きがあるの。聴いて」


謙信は喜びもせず、ほぼ真顔で続きを聴いてほしいと言った桃の唇を見つめ続けた。



「でも…三成さんのお嫁さんにもなります」



――さすがに謙信と三成が顔を見合わせて桃の真意を量り兼ねた表情になり、罵倒されても構わないという覚悟で桃は続きをゆっくりと話した。



「やっぱり選べないの。でもどっちの手を離すこともできないの。謙信さんと三成さん…私にはとってももったいなくて、迷惑いっぱいかけて困らせたけど…“片方を選べ”って言われたら絶対無理だし、だったら私に出せる答えは、謙信さんと三成さんのお嫁さんになること。つまり…」


「つまり、一妻多夫…ということだね?ふふふ、この時代とは逆だけれど…君の時代では慣習なのかな?」


「ち、違うよ。一夫多妻制でもないし一妻多夫制でもないけど…どんなに迷っても私にはこれしか答えが出せません!」



場がしんと静まり返った。

緊張のあまり顔を上げられないでいると…


「ふふふふ」


2人の唇から、笑い声が漏れた。
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