優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信も三成も最初からわかってはいた。

桃がどちらを選ぼうとも納得できるし、非難しない。

この時代に桃が残ってくれるだけでこの想いは救われるのだから、喜んで祝福しよう、と。


だがまさか…両方の手を選ぼうとするとは。


「君は…欲張りだねえ」


「だって…私は1人しか居ないし、でも苦しんでどちらかを選んで、私が選ばなかった方に奥さんや彼女ができたら私…すごく卑屈な気分になると思うの。だから欲張りになろうって決めたの。…こういうの、やっぱりおかしいよね…?呆れた?…嫌いになった?」


――謙信と三成は考え込むふりをしながら互いの盃に酒を注ぎこむと、盃の中で揺れる透明の酒に目を落として黙り込んだ。

そうすれば桃が焦って必死の弁明をしてくることを2人共知っているからだ。



「あ、あの…私…怒らせたよね?こんな優柔不断な女、いやになったんでしょ?でもお願い、私にはどちらかを選ぶことなんて絶対にできないの。だから…」


「…で、形式的には私の正室に…ということでいいのかな?」


「ああ、それがいい。あくまで形式的にだぞ」


「……え?」



涙声で言葉が詰まった桃がきょとんとしている間にも2人は勝手に話を進行させ、桃は2人の顔を交互に見合わせていた。



「君は形式的には間男という立場になるんだけれど…納得できる?」


「形式的には、だろう?俺も桃の夫となるのだから貴公と立場は変わらぬ」


「じゃあ問題は夜伽の回数?できれば桃は私の正室なんだから、私の方を多めにしてほしいんだけど」


「何度言わせるつもりだ?桃は俺の妻にもなるのだぞ。よ、夜伽の回数は公平に、だ」


「え?え?…え!?」



どんどん話が進行していき、パニックになっている桃の顔を見た謙信たちは吹き出しながら盃をかちんと軽くぶつけて一気に呷った。



「君は私たちの妻となる。君は半分こにできないから、全てを公平に。形式的には私の正室となるけれど、私と三成の妻だ。部屋に通ってくる三成を秘密にできるかい?誰にも秘密に、だよ?」


「謙信さん…三成さん…っ、いいの…?それで…いいの!?」


「ええ?君が決めたことでしょ?いいに決まってるよ。これで義に適うね」



桃は唖然としていた。

来ると思っていた罵声は浴びず、優しい言葉が身体に沁み込んだ。
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