優しい手①~戦国:石田三成~【完】
それから桃の生理が終わるまでの謙信の働きぶりは目を見張るものがあった。


「殿…熱でもおありであれば今日は早々に…」


「熱なんかないってば。それより兼続、話があるからね」


毎日各国から大名が徒党を組んで現れ、本来なら“もういやだ”と駄々をこねる謙信は上座に居続けた。

結果的にやはりほぼすべての国が謙信が天下を治めることに意義無しとの回答で、最終日と位置付けた日、謙信は兼続に事情を話した。


…もちろんものすごく驚かれたし、兼続の頭の中で目まぐるしい計算がなされているのも想像していたが…


「で、三成や桃姫は納得されておられるのですね?」


「もちろん。形式的には私の正室だよ。だから盛大に祝言を挙げて、街にも布令を出すんだ。できれば今すぐ取り掛かってほしい。…私は早く妻になる桃をちゃんとこの腕で抱きたいんだよ」


「御意!このこと、幸村にも秘密にされるので?」


「桃が話すというならば別にいいけど私からは特別話さないかな。あの子は堅物だからねえ」


「畏まりまして!では布令の用意を今すぐいたしまする!殿!もう待ったは無しですぞ!」


「わかってるってば。それを言うなら桃に言ってよね」


――早速脱兎のごとく兼続が飛び出していくと、騒ぎを聴きつけた政宗や兼続たちは部屋へと入ってきた。


…が、いくら彼らと親しいとはいっても、このことは秘密だ。

この時代絶対に有り得ないことをしようとしているし、また桃の心象が悪くなる可能性も無いとは言い切れないのだから。


「兼続が大騒ぎだな、どうした?」


「うん、私と桃が祝言を挙げるんだ。その準備を兼続に頼んだんだよ」


「な…っ、父上!では桃姫は我らの母に…!?」


「そういうこと。正式に正室として迎え入れる。三成には桃のことは諦めてもらったよ」


一同は顔を見合わせて“そんなはずは…”と言いかけたが、天下を治める謙信にこそ桃を娶る資格がある。

三成はきっと一歩退いたのだろう、と勝手な想像をしつつ、謙信はそれを敢えて否定しなかった。


「ということだからこれからまた忙しくなるからね。盛大にやるよ」


毘沙門天が再び出会わせてくれた縁を今度こそ離さない。

今度こそ…
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