優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃が真ん中で、左右には三成と謙信が眠っている――

こんなことをするのは今日がこれで最後だ。


これからは、三成とは秘密の逢瀬を交わしていくことになる。


「三成さんはそれでよかったのかな」


「…何がだ?」


右隣に眠っている三成の方へ身体を傾けると、三成が手を伸ばして頬に触れてきた。


…この手を本当に好きだと思う。

大きくてあたたかくて、優しい手だ。


桃は再度確認するように、頬に触れた三成の手を指でなぞると潤んだ瞳で見つめた。


「建前だとしても私は謙信さんの正室…。三成さんはつまり…」


「間男、ってことだねえ」


それに答えたのは左隣の謙信で、肩越しに振り返ると頬杖を突いて欠伸をしていた謙信は三成を挑発するように続けた。


「実際は君に夫が2人ってことだけど、建前は天下人の私の妻。君は間男で、皆の目を盗んで桃と逢瀬を交わさなければならなくなるね」


「…それがどうした。貴公もそれに納得した上で決めたことだったろう?」


「まあそうなんだけど。念書でも書く?“抜け駆けをしない、全て平等に”って」


「あはははっ、喧嘩しないでっ。でも明日は…その…どうなるの…?私…2人と…?」


夜目に慣れてきた桃は、謙信がやわらかい笑みを掃いているのを見た。


そして右手には…三成が指を絡めてきた感触にきゅっと瞳を閉じた。



「明日は私と。明後日は三成と。明々後日は私と。その次は…まあそんな感じかな。それとも1日で私と三成の攻めに耐え切れるのかな?それをお望みながら喜んでそうしてあげるよ」


「わ、わかんないっ。そんなの…考えたことなかった…」


「じゃあ3人で…」


「このど助平が。その口を閉じろ」



どこまでも桃を惑わせる謙信に固い枕を投げつけた三成は、桃の首のあたりまでしっかり布団をかけてやると桃の弱点の耳に熱い息と共にひそりを囁きを吹き込んだ。



「…明後日…待っている。謙信とは違う世界を見せてやる」


「!三成…さん…」



愛し方が全く違う2人の腕に抱かれる自分を想像するときゅんとして、頭まで布団を被ると2人がひっそりと笑う気配がした。


「もう私たちから逃げられないよ。腹を括ってね」


返事が出来ず、布団の中で悶えた。
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