優しい手①~戦国:石田三成~【完】
この天守閣が、三成と逢瀬を交わす秘密の場所。


ここには幸村もほとんど寄り付かないし、謙信と床と共にして眠った後は自室に戻って行くので、その後に床を抜け出してここへ来れば…三成と会える。


…結局優柔不断が過ぎてどちらの手をも選んでしまったけれど…それを快く受け入れてくれた2人に感謝しきれないほど感謝していた。


「じゃあ私…準備があるから行って来るね」


「ん、行っておいで。ああ、私も着飾られてしまうのかなあ…」


とことん行事に興味のない謙信がぼやくと、三成はそのぼやきを完全に無視して桃の両肩に手を乗せた。


「…俺がその場に居ると不自然故、遠目から見ている」


「うん。じゃあ三成さん…明日ね」


「ああ」


――城外城内共に皆が浮足立ち、桃は大勢の女中に囲まれながら部屋へ連れ去られると、差し出された召し物を見て歓声を上げた。


「わあ…白無垢…」


「こちらを桃姫様にと。殿がお選びになったものです」


審美眼のある謙信のことだから、恐らく目が飛び出るほどに価値のあるものなのだろう。

あの人は、そういうものをさらっと贈ってくれる人なのだ。


そして1時間ほど格闘した末に、桃は自分でも驚くほどに激変した姿を鏡で確認すると、まじまじと覗き込んだ。


「すご…、お化粧って…怖い…」


「失礼いたします。桃姫、ご準備…は……」


支度が終わったのを知った幸村が部屋へ入ってくると、恐らく茶々をも超える美姫に変身した桃を見て息を呑んだ。


白無垢に、爪は桜色の花の汁で淡く染めていて、紅も真っ赤になりすぎない程度の押さえた色味で、肌は白粉を塗ってさらに真っ白になっていた。

女中たちが部屋を出て行くと、まるで月の引力に導かれたかのようにして桃の前で膝を折った幸村は、恐る恐る桃の小さくて真っ白な手を取った。


「桃姫…なんとお美しい…」


「やだなあ幸村さん、照れちゃう。でもすっごく変わったよね。これなら謙信さんに似合う奥さんだってこと、みんなに認めてもらえるかなあ?」


「も、もちろんです!さあ行きましょう、殿はもうご準備をお済みになっておられますので」


だが隣の謙信の部屋には主の気配はなく、幸村に導かれるままについて歩くと、そこは謙信が時々隠れたり昼寝をしていたりする秘密の部屋だった。


そして、対面する。
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