優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃が大広間へ入ると、皆から“おお…”という感心する声が上がった。

自分でもよく化けたものだと思っていたので少し恥ずかしくなりつつも上座に座った謙信の隣に座ると、目だけを動かして三成の姿を捜したが…見つからない。

いくら三成も夫になるとはいえ、建前上は謙信の正室。

特に謙信の重臣たちは三成がその場に居ることを嫌がっただろうし、また機転の利く三成もそれをわかっていたのだろう。


「殿も正式にご正室をお迎えになられ、我が越後…いや、この国は安泰そのもの!後は御子のみですな!」


「こらこら、勝手に話を進めないように。私は元々天下人なんて望んでなかったし、他国を侵犯しようとも思ってなかったんだからね」


「わかっておりますとも!さあさあ殿、盃をお手に」


兼続から漆塗りの盃を手渡された謙信はどこかうきうきしていて、酒が呑めるからだと推測した桃が軽く睨むと肩を竦めて小さな声で言い訳をしてきた。


「慣例だからね、仕方なくだよ」


「嘘ばっかり」


これから交わすのは、三々九度の儀式。

祝言のために呼ばれた格式のある神官がお銚子を傾けてお神酒を注ぐと、謙信は1度顔まで盃を持ち上げると桃に見せた。


「こうすればいいんだよ。わかった?」


「う、うん」


笑みを浮かべたまま1度…2度…軽く盃を傾けて、3度目は一気にお神酒を飲み干した。

そして幸せそうな表情のまま盃を桃に手渡し、神官が同じようにお神酒を注ぐと、先程謙信がしたように顔の位置まで盃を両手で持ち上げて、1度…2度…そして3度目にゆっくりと飲み干すと、酒に弱い桃は一気に身体が傾き、それを謙信が支えた。


「桃…初夜の前にも同じことをするんだよ。寝入ってしまって私をがっかりさせたいのかい?」


「謙信さ…、う、うん…頑張る…」


だが身体に力が入らず、仕方なく謙信の肩に寄りかかり、神官が祝詞を唱えるのをぼんやりと聴いていた。


できれば三成とも同じことをしたいが…三々九度くらいはしたって罰はあたらないだろう。


「三成さんとも…いい…?」


小さな声で問うと、義を重んじる謙信は否定せずに桃の肩を抱いて頷いた。


「もちろん。君の好きなようにするといい。だけど…今日は朝まで離さないからね。三成のことを想うのもこれより禁ずる。いいね?」


「うん…」


ふわり、ふわり。
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