優しい手①~戦国:石田三成~【完】
どんちゃん騒ぎは夜更けまで行われて、一つ所にじっとして居られない性質の桃はとうとう痺れを切らして謙信に退席を請うた。


「謙信さん…もう無理っ。私、退っててもいい?」


「ああそうだね、じゃあ…先に行っていて」


こそりと耳打ちをしてきた謙信の息が熱くて身震いすると、この後何が起こるのかを悟った桃は恥ずかしさに身を震わせてそっと立ち上がった。

…皆はそんな桃に気付いていたが、謙信と桃の初夜をからかう者は皆無だ。


今夜、2人は正式に夫婦となったのだから、契りを交わす儀式を揶揄しようなどという不届き者は居ない。

もし居たとすれば、直ちに胴体と首が離れていたことだろう。


「桃姫様、ご準備をお手伝いさせて頂きます」


大広間を出ると控えていた女中ら数人に囲まれてしまい、湯殿へ案内されるとこの日はどう断っても聞き入れてもらえず、皆に寄ってたかって髪を洗われ、身体を擦られてくたくたになった桃は、真っ白な浴衣を着せられた。

素材もいつもと違い、さらに上質なものだ。

手触りを楽しんでいると、女中頭が頭を下げながらこれからの流れを説明した。


「ここからは桃姫様おひとりで。人の目に触れてはなりません故、これから人目のない通路をご説明いたします」


「あ、はい…」


その間に開かれていた酒宴が直ちに終了し、家臣らが慌ててそれぞれの部屋へ引き返して無人の状態を作っていたことを桃は知らない。

故に城内はほとんど灯りが燈されていない状態で、桃は蝋を受ける小皿と蝋燭を持たされて真っ暗な廊下をひとりで歩かなければならない羽目になり、半泣きになっていた。


「どうしよう…お化けが出たらどうしよう…!」


いまだに幽霊が怖くて、廊下の角から幽霊が飛び出てくるのではないかという怖い想像ばかりしてしまっていた桃はだんだん早歩きになり、謙信の部屋の前へ着いた時は息切れをして正座をして息を整えた。


「はあ、はあ…」


「おや、もう息が荒くなっているのかい?君のその期待に応えなければね」


「け、謙信さん!」


桃の気配を察した謙信が襖を開けてくれたのだが…同じく真っ白な浴衣を着ているのを見た桃は慌てて俯き、胸元から覗いていた鍛えられた白い胸から瞳を逸らした。


「お、遅くなっちゃった?」


「いや、全然。さあ、おいで」


――腕の中に。
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