優しい手①~戦国:石田三成~【完】
愛馬に乗った桃の姿は見慣れていたが…


上杉謙信と共に乗って帰ってきたことに三成は衝撃を受けた。


戦で顔を合わせたことはない。

だが幾多の謙信にまつわる武勇伝は幾つも知っている。


…実際顔を見たのは、これがはじめてだった。


「三成、こちらの方は我が殿の…」


「ああいや兼続、私は自分で挨拶するよ。姫、ちょっと待っててね」


――どこか粟を食ったような表情を桃がしているので、三成は桃を見つめ続ける。
普段ならすぐに気がつくのだが、今日に関しては全く顔を上げない。


「よいしょ」


気の抜けた“よいしょ”と共に、桃の身体を抱き上げた謙信は姫抱っこをしたまま三成に笑いかけた。


「私は上杉謙信。尾張には戦を挑みに来たんじゃないよ。この姫をもらい受けに来ただけだから」


「…と言いますと?」


明らかに不遜な態度を取ったつもりなのに、謙信は笑みを絶やさない。


「その言葉通りの意味だけど。姫は我が仏より頂戴した姫君。天女だ」


――すぐ間近で謙信の唇が動いているのを桃は見つめてしまい、ふっと視線を下げては瞳だけで笑いかけてきた謙信から離れようともがいた。


「け、謙信さん、私下ります!」


「そう?それは残念」


そう言いながらも素直に下ろしてくれた謙信は、次に駆け寄ってきた男を腕を組んで待っていた。


「殿!!」


「幸村、久々だね。お前が先だってくれたおかげで何事もなくここまで来れたよ」


嬉しさいっぱいの顔で幸村は謙信の前で膝を折り、見上げる。


「それは良うございました!殿の無事何より!さすが兼続様」


「はははっ、任せろ!この兼続、愛する殿のために…」


「ああもう…長くなるからいいよ」


少し長めの前髪をかき上げてめんどくさがる同年代の謙信を、三成は不思議なものを見るような目で見ていた。


「私…部屋に戻ってるね!」


突然桃が駆けだしたので一同が後ろ姿を見送ると…謙信が呟いた。


「姫は耳が弱いみたいだね。知ってた?」


幸村は顔色を変え、兼続は深く頷き、三成は…拳を握りしめた。
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