優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信と会ってからこっち、ドキドキの収まらない桃は鏡台の前に突っ立っていた。


「け、謙信さん…なんなのあの人…それに…せ、セクシーすぎる…っ」


三成にしろ、謙信にしろ…この時代の男たちは無駄に色気がありすぎる!


「夜は…きっと宴会だよね。私…今のうちにお風呂頂いてこよっと!」


着替えを手に湯殿へと向かう間に、いきなり後ろから手を引かれた。


「えっ?」


「湯殿に行くの?私が身体を洗ってあげようか」


恐る恐る見上げると…三成たちと居るはずの謙信が目の前に立っていて、笑顔を絶やさず桃の肩を抱いて歩き出した。


「えっ…、あの…っ」


「恥ずかしい?湯着があるから大丈夫だよ」


丸め込まれながら脚は進み、そこでようやく助け舟が入った。


「殿ぉっ!越後に戻られるまではお手付きなしと拙者に誓ったではありませぬか!」


駆け寄ってきた短髪の若々しい男は桃を見るや否や傅く。


「桃姫、ご挨拶が遅れて申し訳ありませぬ!拙者は直江兼続と申しまして殿のお世話係で…」


「兼続、邪魔をしに来たの?せっかくいいところだったのに…」


どこか眠たそうな表情でがっかりな声を出した謙信の手を無理矢理引っ張って兼続は歩き出した。


「姫、どうぞごゆるりと!殿の足止めは拙者にお任せ下さいませ!」


「あ、あの…どうも…」


どうしたらいいのかわからず無言だった桃はようやく湯殿へとたどり着き、身体を丁寧に洗う。


「茶々さんからもったお着物…着ちゃおっかな…」


お洒落して会いたい。


三成はもちろん、謙信にも…


「私って…三成さんにどきどきしたり幸村さんにしたり謙信さんにしたり…気が多いなあ…」


――特に謙信はここまで会いに来たと言った。


一国一城の主が…生涯独身を貫いた孤高の男が…


「…やだ、上せちゃいそ…」


よろよろと上がっては浴衣を着て部屋に戻る間、幸村とすれ違う。


完全に考え事をしていた桃は幸村を通り越してしまったのだが、幸村は風呂上がりの桃に顔を真っ赤にしては後ろ姿を熱心に見つめていた。


三成は… 恐るべき大敵に頭を悩ませていた。
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