優しい手①~戦国:石田三成~【完】
薄い紫色の着物に腰まで届くウィッグ…いや、付け髪をつけて、バッグの中に入れていた桃の香りのする香水を首に少しつけて…

覚束ない手つきで紅を薄く引くと、気を引き締めて部屋を出た。


早速ばったりと大山に会い、仰天した顔で上から下まで眺め回され、焦った桃は大山の袖を掴む。


「やっぱ変!?」


「い、いや…化けたものだと感心していたのだ!」


誉められたようなそうでないようなことを言われつつも二人で酒宴が催されている部屋に向かう。


「あー桃…その…越後になど行かぬよな?」


「え?」


「三成様が悲しむ故…慎重に考えるのだぞ」


――とても悲しむような男ではないように見えたのだが…とりあえず頷いて笑い声の響く部屋の前に正座した。


「三成様、桃…姫をお連れ致しました」


己の姿も忘れたまま桃が気軽に襖を開けると…一斉に集まった視線にびくついた。


「も、桃姫!なんとお美しい…!」


情熱そのものですぐ傍に座っていた幸村が手を取る。


「あ、えっと…変じゃないかな?」


「いやいや殿!これは美しい姫君であらせられますな!越後の宝になりますぞ!」


「兼続、うるさい。姫…数年後君はそのように美しくなる。私にはわかるよ」


片膝を立てて座り、盃を傾ける謙信の姿に桃は口から心臓が出そうになっていた。


「あ…ありがとう、ございます…」


しりすぼみする声に、さらに追い撃ちをかけた者が在る。


「…」


先程から黙ったままの三成だ。


謙信の前に座っては、無言で目も合わせてくれない。


…違う意味で胸が高鳴り、急に不安になった桃は…自然に三成の隣に座っては動かない表情を見つめた。


「三成さん…これ、どお?」


「…どうも何も」


――それっきりまた話さなくなった三成。


ちらりともこちらを見てくれないので、何か怒らせてしまったに違いないと思った桃は浮かれた心が萎んでしまった。


「…して、謙信公はいつまでご逗留される予定でおられるのか?」


「姫の良い返事を聞けるまで、かな」


即答の謙信に、三成の明晰なる頭脳はフル回転し続けていた。
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