優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃にはひとつだけ、怖いものがある。


「今日はもう休むといい。また話を聞かせてくれ」


腰を上げると、三成は少しだけ桃を見つめて、去って行った。


「うぅ…っ、あんな…あんな広い部屋に一人で寝なきゃいけないの…?」


――安土桃山時代…。学校の授業の歴史で一通りは知っているものの、実在の人物の家にお邪魔してしまっているのだ。


「私…ちゃんと帰れのかな。三成さん、ネックレス返してくれないかなあ…」


急に心細くなって、敷かれた布団に包まった。

季節は夏。だが屋敷は主と同じくひんやりしていて、想像したくないものを想像させてしまう。


がさっ。


外から何かが動く音がした。

普段は活気ある活発な子の桃だったが、その音にがばっと起きては瞬きを忘れて障子を見つめる。


…誰も居ない。


がさささっ。


また音がした。

急に部屋の温度が下がった気がして、桃は唯一この世界での知り合いとなる三成の名前をか細い声で何度も呼ぶ。


「三成さん…三成さあん!」


その場にはどうしても居たくなくて、桃は思い切り障子を開けて三成が去った方向へと走り出した。


「三成さん、どこ!?」


長い廊下。
それすらも、桃の一番嫌いなものがふいに現れそうな気がして、涙声になった。


「三成さん…?どうしよ…」


脚ががくがく震えて、桃はその場で膝を抱えて泣き出した。


「…何をしている…?」


また頭の上から声が降って来た。


桃が座りこんでいたのは…三成の寝室の前だった。


「あ…あの……」


「?」


先程の快活さはどこへやら、と言った様子の桃に、三成は女子を寝室へ入れるのもどうかと一瞬考えたが…中へと招き入れる。


ろうそくに火を灯し、部屋が明るくなった途端、桃が安心したように笑った。


「何をしていた?早く寝なさ…」


「三成さん…あの…あの…一緒に…寝ない?」


――固まった。


凍りついたように動かなくなった三成に、桃は知らず知らず追い打ちをかけた。


「一人で寝たくないから…一緒に寝よ?」


三成の顔が一気に耳まで赤くなった。
< 7 / 671 >

この作品をシェア

pagetop