優しい手①~戦国:石田三成~【完】
すっかり心の折れた桃は三成の顔をたまに盗み見しては小さくため息をつく、の繰り返しで、


幸村はなんとか桃を笑わせようと必死になっていたが、それも虚しく…


ずっと様子を見ていた謙信は早々に腰を上げた。


「今宵は少々疲れたから寝るとするよ。桃姫…一緒にどう?」


「…遠慮しときます……」


テンションがガタ落ちの桃は、ずっと俯いたまま拳を膝の上で握りしめていた。


すると、三成が立ち上がった。


「それは気付かず失礼いたした。秀吉様には内密故、あまり出歩きませぬよう…」


注意事項を説明しながら部屋から三人が出ていき、残った幸村は何と話しかければ良いのかわからずにただずっと傍に座っていた。


「…私ももう部屋に戻るね」


「桃姫…桃姫には笑顔がよくお似合いです。ですので…」


「ん、ありがと…」


――正直桃にも、何故三成が急にあんな冷たい態度を取ってきたのか全くわかっていない。

だが、それが自分のせいであることだけは、わかっている。


馬鹿みたいに着飾って…誉めてもらおうとした自分がとてつもなく恥ずかしく、立ち上がると幸村に弱々しい笑みを見せては部屋を出た。


「…三成さん……」


あんなに熱心に口説いてきたと思えば、掌を返したかのように冷たくなる。

だからこっちも熱くなったり冷たくなったりで、翻弄されてしまう。


「なんでこんな気分になっちゃうんだろ…」


――普段三成と一緒に寝る部屋にると布団をいつものように二組引いて、三成が来るのを待った。

三成が来るまでは、布団には入らない。そんな覚悟で布団の傍で座っていた。


「…何をしている」


しばらくすると、真っ暗な部屋の中に屋敷の主が現れた。
逆光でその顔は見えなかったが、最高潮に緊張が高まる中、桃はもやもやしている気持ちを吐き出した。


「三成さん、私何かした?なんで冷たいの?なんで…誉めてくれないの…?」


「…」


返事もなく布団に入っては横になった三成の肩を揺する。


「どうして?なんで…」


「…そなたが謙信のために美しくなってみせたからだ」


――嫉妬。

狂おしいほどの心。
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