優しい手①~戦国:石田三成~【完】
朝まで手を握って眠り、安心しきった桃はいつの間にか寝てしまった。

抱きたいのは山々だが…

謙信の登場で焦って無理強いをしてしまっては、桃はどんどん離れて行ってしまうだろう。

だから、この時代に留まり、想いを受け止めてもらえるまで…

大切に大切に、傍に置いておきたい。


――朝を迎え、桃はまた三成が隣に居ないことに少しがっかりした。


「…相変わらずなんだから」


三成は皆の前では毅然としているが、自分の前ではやや子供っぽいところを見せることもあるし、三成の魅力はまだまだ沢山知ってゆくのだろう。


「クーロちゃん、ご飯だよー」


いつものセーラー服に着替えてクロに会いに行くと、俄然興奮したクロは手綱を引かずとも桃の後ろについて回る。


「あれ?ご飯要らないの?」


何故か首を下げてにじり寄るクロに首を傾げていると…


「乗ってくれ、と言ってるんだ」


後ろから声をかけられて、一瞬桃の身体は揺らいだ。


「あ…三成さん、おはよ…」


「ああ。一度乗ってやると落ち着く。餌はそれからにしてやれ」


熱い日差しが降り注ぐ中、三成のはにかんだような笑顔が眩しくて桃は一気にクロに跨がった。


「…!!」


「え…どしたの?」


――咳ばらいしながら顔を背けた三成の白皙の頬は赤くなり、ますますはてな顔になった桃はクロの首を叩いてやりながら問い質した。


「なんで赤くなってるの?」


「…その…………見えたぞ……」


……意味をしばらく考えた結果…桃の顔は三成に負けない位赤くなった。


「み、見たの!?」


「い、いや、見てない!…少し見えただけ…いや、み、見てない!」


慌てて否定にかかる三成におかしくなった桃は馬から飛び降りると三成に抱き留められた。


「…見たんだ?」


「う…っ、み、み、見た…」


やっと認めた三成と二人で吹き出しているのを見ていた者たちが居た。


「仲睦まじいねえ。やる気が失せるなあ」


「殿っ、殿の魅力でここはひとつ!」


――謙信と兼続だ。


「あれを見せるしかないか」


そう呟いた。
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