優しい手①~戦国:石田三成~【完】
大坂城へと出仕しなければならない三成は後ろ髪引かれる思いで屋敷を後にした。


それまでずっと穏やかな笑みでのんびりしていた謙信が…ついに動く。


「姫、こちらへおいで」


その時庭を掃いていた桃は満面の朗らかな人懐っこい笑顔で駆け寄ってきた兼続に恭しく手を取られて縁側の謙信の隣に座らされる。


それを少し離れた場所から幸村がはらはらしながら見守っていた。


とことんマイペースな謙信は欠伸をしながら桃の膝に頭を預けて横になった。
…つまり膝枕だ。


「殿っなんとお羨ましい!次は拙者が!」


「兼続うるさい。いいからあれを持って来て」


「はっ!畏まりまして!」


やけに鈍重な足取りで居なくなった兼続と膝枕の謙信…越後の人間はマイペースな性格の持ち主が多いらしい。


「いい天気だ。戦のことなんか忘れてしまうほどに」


「あの…謙信さん…なんで私がこの時代に来たってわかったんですか?」


――タイムスリップした場所はこの三成邸。

この屋敷の人間以外には誰にも事情を話していないのに…。


「私の仏が姫の存在を教えてくれたのだよ」


ぞくりとするほど低い声で見上げてきた謙信は、そのまま桃の腰に腕を回すとゆっくりと押し倒した。


「な…っ、なに…」


「この戦乱の世に一輪の可憐な花…。君がこの地獄絵図に終止符を打ってくれると教えてくれたんだ」


首筋を謙信の指が這い、息がかかるほどの距離で微笑んできた。


「だから…攫いに来たんだよ。私は仏に従い、姫を愛するためにやって来た。私のことをどう思う?姫…」


「そ、そんな…、やっ」


頬に口づけをすると身を竦めた桃の身体を抱き込んで、腰を撫でた。


「越後には姫の求めているものがある。越後においで」


完全に状況についていけない桃の唇を求めて謙信が身を乗り出した時――


「殿殿殿っ!やっと発見いたしまし…、おっと!これはお邪魔いたしましたかな?」


…そう言いながらも若武者の兼続は軽く睨む謙信に反省した様子もなく、一枚の紙を差し出した。


「さあ、これを見てごらん」


起き上がった桃はその紙を開き…言葉を失った。
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