優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「布団は一組しか…」


「一人じゃ眠れないの。だからお願い!」


拝むようにして手をすり合わせる桃を、やはり三成は言葉もないまま狼狽しながら見つめる。


「もしかして…駄目?駄目なら…諦める…」


――お化け。


桃が一人で寝たくない理由を知った三成は…つい小さく吹き出した。


「落ち武者でも現れると?俺は見たことがないから…出ないと思うが?」


「駄目駄目!駄目なの!抱き着いたりしないからお願い!」


違う時代から現れて心細い桃を邪険にすることもできずに、三成はため息をついた。


「…年頃の女子と同衾とは…いや、正確には同衾ではないが…」


ぶつぶつ呟いているうちに桃はさっさと三成の布団に入ってしまい、隣を叩いていた。


「ほら早く!襲ったりしないから大丈夫だよ」


「な、何を…」


…桃と出会ってからいまいち調子が狂いっぱなしの三成は切れ長の綺麗な瞳を一度閉じては深呼吸して…


布団の端ぎりぎりで横になった。


「もっとこっち来ないの?」


ろうそくの炎に桃の顔が照らし出される。


…よく見れば…可憐な顔立ちをしている。


よくわからないことを口走るが、それも生きている時代が違うので仕方ないことなのだろう。


「そなたの時代には…俺や秀吉様の生き様は伝わっているのだろうか?」


「うんみんな知ってるよ。特に秀吉さんについては知らない人なんか居ないもん」


その言葉に三成の胸があたたかなもので満ちてゆく。


「俺は…死ぬまで秀吉様のお側でお仕えしていたのだろうか?」


「うん、確かそうだよ。三成さんは秀吉さんが大好きで文武に長けた人だって先生が言ってたよ」


「せん…せい?」


またも知らない言葉が出てきたが、先行く時代に自分や秀吉のことが伝わっていることを三成は知れただけで満足だった。


が。


――桃が急に身体を寄せてきては驚いた三成が布団からはみ出しながらついどもった。


「な、な、な…っ」


「三成さんは気難しい人で頑固で融通が利かないって習ったよ。当たってる?」


それを聞いた三成はまたため息をついた。


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