優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「でも…秀吉さんと…信長さんが…同じ時代で天下取り争いしてるのは…おかしいよね…」


「…なに」


「だって信長さんが殺された後に…秀吉さんが…むにゃ」


――聞き捨てならないことを言いながら桃が寝入ってしまった。


…信長が殺された?


秀吉様が…何をしたんだ!?


…聞きたいことが山ほどあったが…ひとまず三成は眠ってしまった桃から距離を取って背中を向けて、呟いた。



「…眠れるわけ、ない」



――朝、普段朝練などで早起きの桃が腕時計を見ると…5時だ。


ハンバーグを作ると三成に豪語したので、三成を起こそうと隣を見ると…居ない。

人気のない廊下を歩いて与えられた部屋に入り、制服を着た。


…そこで荷物を確認した。


「制服、防水腕時計、ジャージとスパッツと裁縫セットと風邪薬と…あと下着。下着…これが一番大事!」


そしてスーパーの袋を手にして障子を開けた時…何故か少し元気のなさそうな三成と鉢合わせになった。


「あっ三成さんおはよ!なんか元気ないね?もしかして…私いびきかいてた!?」


「いや…何でもない」


背の高い三成の顔を爪先立ちで見ながら桃は親指を立ててグーサインをした。


「今日もイケメン!」


「いけ、めん…?」


どこ吹く風の桃はもう会話を変えて三成の手を引っ張った。


「朝ごはん作るから台所の場所教えて!」


「あ、ああ」


――やわらかい手。


刀や槍で敵兵を殺しては血の染み付いた無骨な手にあたたかさが広がる。


「時に…はんばーぐとは?」


「お肉だよ!ケチャップも買ってたからちょうどよかった!」


「そなた…その…その服は…」


「あ、これ?セーラー服っていうんだよ。一日の大抵はこれ着てるんだよ」


――女子とは着物を着て慎ましく穏やかにすべきだ。


…三成は女子をそういう生き物だと思っていたが…ここに例外が居る。


生脚だ。


「その…あ、脚が…」


「脚?若いうちに見せとかなきゃねー」



的外れな答えに、三成は困り果てて頭をかいた。
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