優しい手①~戦国:石田三成~【完】
とにかく“茶々さんの所へ”の一点張りな桃に、三成は何とか理性を取り戻し、桃を乗せてクロで大坂城へと向かった。


「一体どうしたのだ?」


「三成さんには言えないの!お願いだから早く!」


背中にしがみついたまま顔を上げないので、追求を諦めた三成は更にクロを急かして城へと着いた。


「おや三成殿?先程お帰りになられたというのに…」


そう話し掛けた門番に頷き、用を伝えて馬を預け、桃を腕に抱いて城内へと向かった三成に桃が声を上げた。


「え、さっき来たの?」


「ああ。秀吉様にお会いして来た。まさかまた来るとは…」


――三成と桃が来たことを知った茶々が部屋の前で待ち構えていた。


「桃姫、いかがされたのですか?わたくしに用とは…」


相変わらず美しく優しい茶々に思わずすがった桃は耳元で秘密を明かした。


「ふふ、なるほど…」


主君の側室である茶々の前で膝を折り、頭を下げている三成に茶々が笑いかけた。


「三成、桃姫は今宵わたくしがお預かりいたします。そなたは帰ってもよいぞ」


「は?いえ、私は…」


「桃姫は今そなたに会いたくないのです。察してやりなさい」


――一瞬むっとした表情を浮かべた三成。

茶々は少し羨ましいと思いつつ、侍女に桃を預けて部屋から出すと三成を招き入れて小声で囁いた。


「知りたいですか?」


「…はい。桃は…桃姫は一体…?」


桃のことになると意外と短気になる三成はぎゅっと唇を引き結んだ。


普段冷静すぎるほどに怜悧で、秀吉にもずけずけと物を言う三成がはじめて見せる表情に茶々は夢中になってしまう。


「…桃姫は女子が月に一度罹る病になった…といえばわかりますか?」


三成はしばらく天井を仰いで意味を考えた。


そしてたどり着いた答えに一気に顔が赤くなった三成をまたはじめて見た茶々はただただ甘いため息をついた。


「わかりましたか?男所帯のそなたの屋敷には今居づらいはず。ですから今宵はお預かりいたします」


「は……、か、畏まりました」


口を抑えて絶句してしまった三成を、茶々は愛しい眼差しで見つめ続けた。


★★
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