優しい手①~戦国:石田三成~【完】
――茶々と侍女から処置を教えてもらった桃は、

その心許なさに身動きひとつ取れず、茶々の広い部屋に居座ったまま襖の隙間から見える三成の背中をのぞき見した。


「姫のことが心配で仕方ないのでしょう。話し掛けてあげなさい」


「でも…恥ずかしいよ」


――よもや生理になろうとは!


しかも…いい雰囲気になりかけてた時に!


「そなたが話し掛けねば三成はあのまま夜を明かしてしまいますよ」


またもや茶々に着せ替え人形にされて豪奢な着物、つけ髪をされた桃は襖を開けずに三成に声をかけた。


「あの…三成さん?」


「…桃か?」


互いにもじもじしたまま向かい合いもせず、見える広い背中に桃の小さな声が反射する。


「もうお家に帰った方がいいよ」


「今宵は俺はここに居る。そなたはゆっくり寝るといい。その…………身体がつらいだろう?」


言いにくそうに心配してくれた三成の背中に少しだけ襖を開けて、触れてみた。


一瞬傾いだ身体の温かさが指先に燈り、手を離そうとした時…


三成がこちらを向いて、その手を握った。


「みつ…」


「俺を…許してくれるか?」


――せっかく忘れかけていたのに思い出させるようなことを言われて頬が熱くなる。


「え…う、うん…」


「良かった。茶々殿もご心配されておられるだろうから早く休め。明日共に屋敷へ帰ろう」


最後に掌にキスされて飛び上がると、肩で笑いながら襖が閉められた。


「三成は…随分とそなたに心を開いているようですね」


――どこか押し殺したような声を出した茶々を振り返った桃は、天真爛漫にその問いに頷いた。


「最初から親切にしてくれて…三成さんに拾ってもらわなかったらどうなってたか想像つかないです」


「…そうですか。あの者は無骨で仏頂面で毒舌家。そなたから聞いている三成と実際の三成が結び付きません」


やわらかく笑いかけられて、ほんわかなると茶々は隣の続き部屋を指した。


「さあ、早く寝なさい。明日はわたくしが城内を案内して差し上げるわ」


無邪気な桃をとことん羨ましいと思った。
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