優しい手①~戦国:石田三成~【完】
秀吉は確信した。


“三成は桃姫に真に惚れ込んでいる”と。


「のう桃姫…ちと儂と二人で茶を飲まぬか?」


「…秀吉様」


咎めの響きを含んだ三成の低い声に、秀吉は扇子を三成の口元にあてて鋭く睨んだ。


「利休が来ておるし美味い菓子もあるぞ」


「わっ、行きます!」


――完全に菓子に乗せられた桃が秀吉に手を引かれて立ち上がった。


「ちょっと行ってきまーす!利休って…千利休さん!?」


「そうじゃよ、小難しいことを言う奴じゃが立てる茶は美味くてのう」


既に茶飲み友達の如く親しげに話しかける秀吉に三成はため息をついた。


――秀吉が作った黄金の茶室。


それを見た桃はあんぐりと口を開けたまま立ち尽くした。


「ああ、ここで茶を立てるのはどうしても嫌だとぬかすのでなあ、こっちじゃ」


「わあ…」


振り返りながら感嘆する桃に秀吉の目尻が下がった。


「あの堅物め…このような可憐な女子をよう手に入れたもんじゃなあ」


「え?」


黄金の茶室に夢中になっていた桃はその呟きを聞き逃してしまい、秀吉はニカッと笑ってまた手を引くと普通の茶室へと桃を導いた。


そこにはすでに利休が座っていて、すぐさま隣に座ると利休の手を握った。


「おや…秀吉様、こちらは?」


秀吉と同じ位の年齢で柔和な笑みを浮かべている利休がにこにこしながら桃を見る。


「桃姫と言ってな……聞いて驚け、あの三成の寵姫なんじゃ」


「…石田殿の?それはそれは…」


「ちょうき?」


まだ意味を教えてもらっていない桃は利休をキラキラした瞳で見つめ、困ったように笑いながら利休は桃の小さな手を撫でた。


「寵愛される姫…とでも申しますか。本来は妾…愛妾などの意味で使用されますが…石田殿に限ってそれはないでしょうな」


――桃は一生懸命意味を考えた。


寵愛とは、一身に愛を受ける、という意味だ。


「そ、そんな…寵姫だなんて…」


「いやいや、あ奴は何人も女を囲えるほど器用な男ではない故安心しなさい。これは愉快痛快!」


パニクる桃をよそに秀吉は上機嫌だった。
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